柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

硬水でごはんを炊く

炊飯には軟水が向くと言われている。硬水で炊くと、水が入りにくく、炊きあがりが黄色くなるそうだ。

 

そこで、「GEROLSTEINER」という硬度1310mg/Lの超硬水で炊いてみたところ、見た目は黄色くて、お米は長細く見える。膨らまなかったのだろうか。香りは酸っぱいトウモロコシのよう。そして、口に入れると桜餅のような不思議な風味。食感は普通炊飯と大きな差異はない。夫は「苦い」と言う。

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硬水で炊いたごはん(左)

では、どんな水が良いのだろうか。 

そこで、①硬度1.7mg/Lの水(「温泉水」)と、②硬度63mg/Lの水(「富士山のおいしい水」)で炊飯してみた。

 

すると、①では洗米のときに最初に触れた水がものすごく濁った。ほんのーり黄色みがかた白濁。びっくり。炊きあがりは①のほうが香りが強く感じられ、外観はつやつやしっとり。一方で、②は少しかさつく。 

ところが、①も②も食感がねちょっとしてイマイチ。特に①は米肌が溶けているのか?という雰囲気の食感。見た目はふっくらして膨らんでいて増えている印象だけど、見かけ倒しで、食べるとやわやわねちょねちょ。②は、ほろっと粒感はあるのでまだマシだった。

 

正直言って、普段の水道水のほうがおいしい。

 

というわけで、上水場を調べてみると、全国平均は50mg/Lで、わが家に最も近い上水場は33mg/Lだった。

 

というわけで、「炊飯には軟水が良い」と言っても軟らかすぎる水は炊飯には向かないのではなかろうかという推論にたどりついた。ただし、この実験は一度しかやっていないので、何回かやってみないと断言はできない。

 

また、①はPH9.5〜9.9の強アルカリ、Na5.00mg、Ca0.05mg、Mg0.01mg、K0.08mg②はPH7.7の弱アルカリ、Na1.1mg、Ca1.6mg、Mg0.55mg、K0.19mgなので、硬度だけでなく、PHやその他ミネラルの種類の影響もあるのかもしれない。

 

ちなみに、ミネラルウォーターで33mg/Lに近い水は、「南アルプスの天然水」30mg/L、「仙人秘水」28mg/L、「クリスタルガイザー」38mg/L。近所のスーパーにある水の中ではこれだけ。

 

ただし、福島市内でも棚倉町は平均2mg/Lで、会津若松市は平均9mg/Lで、福島市は平均19mg/Lと地域によって硬度はずいぶん違う。上水場のPHやミネラルまではまだ調べることができていない。「水道水とミネラルウオーターはどちらが炊飯にあうのか」。その答えは、住む地域や買うミネラルウーターによって違うというのが現時点での結論。実験はゆるやかに続く。

ごはんをもうちょっと食べるには

モチあり正月」で、夫が昼と夜に餅を12個食べたと書いたけど、この時は家に餅がこれしかなかったから12個しか食べられなかっただけで、餅をついたときは夫は1食で1升は食べている。

 

この「12個」に対して、「そんなに食べるの?」と言う人と、「それしか食べないの?」と言う人がいておもしろかった。素敵なマダムの友人は「私が若い頃は1食で20個くらぺろりと食べていたわよ!」と言っていた。

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1升は夫のお腹に消える

それにしても、茶碗によそったごはんやおこわに比べて、餅やおむすびだとたくさん食べられる人は多いように思う。特に、ごはんは少ししか食べない人が、おむすびだと意外と食べている。

 

栄養士の幕内秀夫さんが油脂と砂糖の影響について「焼き芋はあまり食べられなくても、砂糖が入った芋ようかんはもうちょっと食べられる。さらに、バターと砂糖が入ったスイートポテトはもうちょっと食べられる。さらに、揚げて砂糖をまぶしたさつま芋チップはもうちょっと食べられる」と説明していた。たしかに、油を使う炒飯やカレーライス、砂糖を使う鮨シャリなどは、白ごはんよりももうちょっとお腹に入りやすいのだろう。

 

しかし、ごはんやおこわだとあまり食べられない人が、餅やおむすびになるともうちょっと食べられるのはなぜだろう。

 

周りを見て感じたのは、大盛りごはん1杯と小さめのおむすび3個だと、ボリュームの感じ方が違うらしい。前者だと見た目でお腹がいっぱいになるそうだ。先日、宮城県栗原市で「えび餅」や「ずんだ餅」などさまざまな種類の餅をちょっとずついただいていたら、いつのまにかいつもの倍は食べていた。人間は目でも食べている。

 

一方で、「餅は1個でごはん1杯分」という情報を得たために餅をあまり食べようとしない人もいる。人間は脳でも食べている。

 

もちろんごはんのおいしさはとても重要だけど、ごはんの消費アップのためには、きっとそれだけではない。われわれはさまざまな部分でごはんを食べている。

アツアツの定義

手がかじかむような寒さの中でヤケドするほどアツアツの甘酒を飲むのが好きだ。

 

過去に甘酒のおいしかった思い出を挙げると、どれも同じような状況で、甘酒を飲んでいる。

 

一番古い記憶は、長野県の祖父母の墓参りに行った時に「しなの鉄道」というローカル線の中で飲んだ甘酒。電車に乗り込んだ軽井沢駅が始発だったため、出発までずいぶん時間があった。まだ暖まっていない出発前の電車内。軽井沢駅で買ったアツアツの甘酒。寒そうな外の景色を眺めながらアツアツを飲む幸せは格別だった。

 

鎌倉八幡宮に行くといつも楽しみにしているのが、敷地内にある売店で売っている甘酒。甘酒は夏の飲み物とも聞くけど、夏はあまり飲む気にならない。やはり、鼻先が冷たくなるほど寒い冬にアツアツを飲むのがたまらなくおいしい。

 

箱根旧街道にある甘酒茶屋は店内に入るといろりの燻した香りと煙が店内に充満している。箱根の山は寒い。ここの甘酒は発泡スチロール素材のコップではなく、湯のみで出てくる。アツアツを冷ましてから飲むのではなく、アツアツのうちにちょっとずつちょっとずつ飲むのがおいしい。冷たい手で湯のみをくるむようにして持ち、手のひらもじんわりと温まってゆく。

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甘酒茶屋のアツアツ甘酒

 甘酒は米と米麹だけの甘酒がいい。買うときは必ず酒粕と砂糖の甘酒じゃないかどうか確かめてから買う。しかし、米と米麹の甘酒だったとしても、買った甘酒がぬるいと、とてもがっかりする。それだけでおいしさは半減どころか3分の1に減る。買わなければ良かったなあとさえ思う。買うときに「この甘酒はアツアツですか?」と聞きたいけど、「アツアツ」と感じる温度は人によって違いそうで聞けない。

 

蕎麦屋でかけそばがぬるいとき、定食屋でみそ汁がぬるいときも同じことを思う。でも、「ぬるいので代えてください」とは言えず、しぶしぶ食べる。オーダーした料理が味の問題以前に、温度の問題でおいしくないときはどうしているのか、みんなに聞いてみたい。

 

スターバックスでは「エクストラホットで」とオーダーすると、通常よりもアツアツのコーヒーが出てくるそうだ。でも、スタバのホームページを見ても、エクストラホットが何度なのか書いていない。ネットでは「エクストラホットにしたのに熱くなかった」と書いている人もいた。人によってアツアツの基準が違うので難しい。

 

一体わたしは何度以上だとアツアツと感じて、何度以下だとザンネンだと感じるのだろうか。アツアツポイントを知るために、しばらくのあいだ、自宅で炊飯実験に使っている放射温度計を持ち歩くことにした。さまざまな料理や飲みものにこっそりレーザービームしようと思っている。

白い粉

冬になったら夫がほぼ毎日のように白い粉を飲むようになった。

 

夫はお兄ちゃんとお父ちゃんと一緒にお米を作っている米農家。住んでいる地域は豪雪地帯なので、冬は何も作らない。農家はみんな一時的にサラリーマンになる。

お兄ちゃんは除雪、お父ちゃんはスキー場のリフト案内、夫は雪山で木こり。

寒い寒い雪山で斜面を歩くだけでもつらいのに雪山を歩くためには脚を高く上げなければならない。歩くだけでも足腰が強靭になりそうだ。さらに、ケガを防ぐために着用しているチェーンソーズボンが重たい。洗濯するときにチェーンソーズボンを持つと、これをはいて雪山の斜面を歩くのかとゾッとする。さらに、木を切るためのチェーンソーもきっと重たいのだろうと思う。

 

夫はお米がおいしいときは1食で2合も食べたり、搗いた餅を1食で1升も食べたりする。仕事の休憩時には周りがタバコで一服しているときに自分はタバコが吸えないので「たけのこの里」とか「さくさくぱんだ」などのお菓子をぼりぼり食べているらしい。それでも、使うエネルギーが多いのか、冬になるともともと痩せているのにさらに痩せているような気がしていた。

 

そんな夫が今年の冬仕事が始まった12月に買ってきたのが白い粉。プロテインだった。朝仕事に行く前と夜寝る前に、専用の容器に水とプロテインを入れてシャカシャカ振って一気飲みしている。

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プロテイン

 私も小学生のころプロテインを飲んでいた。正確に言うと、飲まされていた。

 

スイミングの練習がハードだったにもかかわらず、とても食が細かった私にスタミナをつけさせようとしたのだろう。母が朝夕の2回、シャカシャカとプロテインドリンクを作ってくれた。マスターズチームで水泳選手をしていた父もプロテインを飲んでいた。「勉強したのか?」とは言わないけど、「腹筋したのか?」「腕立てしたのか?」と口うるさく言う父。きっと、父が娘たちにプロテインを飲ませるように母に言ったのかもしれない。

 

当時の私は学校の給食を完食することすら大変で、夕飯前にヤクルトのちっちゃいりんごジュースを1本飲んだだけで夕飯が食べられなくなるような私が、小学校高学年でケンタッキーのバケツサイズをぺろりとたいらげるような他の選手たちに勝てるはずがなかった。母からはプロテインについて「力がつく」と聞いていたので、試合当日に飲むときは「これニュースで見たドーピングってやつじゃないかな?」とドキドキしていた。

 

夫がプロテインをシャカシャカしてぐいっと飲む様子を見るたびに、厳しい練習を恐れながらプロテインを一気飲みしたことや、コーチにビート板を投げられたことや、居残り練習で半分照明を消された薄暗いプールで泳いだ記憶など、いろいろなものが蘇ってくる。

 

先日、実家に帰ったら70歳半ばの父がまだプロテインを飲んでいた。

レモンティー風

バニラの香りをかぐと甘く感じ、カカオの香りをかぐと甘く感じる。でも、バニラやカカオは甘くない。むしろ苦いらしい。バニラアイスとかバニラの香りがついているものはおおむね甘いし、ココアとかチョコレートとかカカオの香りがついているものはおおむね甘い。私たちは経験によっても味の感じ方が変わるらしい。

 

私は温かいレモンティーを飲もうとしてカップに口を近づけると、砂糖を入れていないのに、いつも一瞬甘いように感じる。

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レモンティー

小学生のころ姉と一緒にスイミングの選手コースに通っていた。早朝にプールで練習、髪が濡れたまま学校で授業を受け、放課後もプールで練習。1日6〜7キロは泳いでいた。それがほぼ毎日。つらくてつらくて、いつもゴーグルの中に涙をためながら泳いでいた。

 

朝練はたしか5時起き。冬の朝は暗いし寒い。暗い気分で車に乗って、母の運転でスイミングへ。ひとまず練習前にお腹に何かを入れないとスタミナが出ないということで、母はバナナを用意してくれていた。しかし、食べてすぐに泳ぐことで横っ腹が痛くなることをいつも恐れていた。あまりにもつらい練習を耐えるためには、ほんのちょっとだけ横腹が痛いことも大きな障壁となってしまう。

 

バナナの代わりによく口にしていたのは、母が水筒に入れてくれた熱々のレモンティー。といっても茶葉ではなく、缶に入っているインスタントの甘い粉のやつをお湯に溶かすだけ。母も起きてすぐに私と姉を車に乗せて送っていかねばならないので、ポットでお湯を注ぐだけの手軽なレモンティーをよく使っていた。

 

夜明け前、車がまだ暖まらない寒い車内で、水筒のふたをあけると、レモンティーの香りと湯気がたちのぼる。レモンティー風味の甘い飲みものは、これから始まるつらい練習への恐怖をほんの少しだけやわらげてくれた。熱々の飲み物が胃に入ることで、起きたてのこわばった体もほんの少しだけほどけていくように感じた。

 

大人になるにつれて甘いものが苦手になったきたので、今では紅茶に砂糖を入れることはないし、飲むのはほぼストレートティー。でも、ときどき喫茶店でレモンティーを注文すると、甘くないと頭ではわかっていても必ず一瞬だけ甘く感じる。

 

あの甘いレモンティーをまた飲んでみたいけど、飲みたくない。食品売り場であの紅茶とレモンのイラストが入った缶を見つけると、あの頃の母の愛を思う。

平成の米騒動の食卓

平成ももうすぐ終わり。

ということで、お米の平成回顧記事として、「平成の米騒動」と「タイ米」について書いた。

マイナビ農業「平成の米騒動から四半世紀 日本とタイで米の好みはどう変わった?」

https://agri.mynavi.jp/2019_01_08_54054/

 
米騒動の当時は小学3年生くらいだったのであまり覚えていないけど、「タイ米やカリフォルニア米はおいしくない」という印象だけが残っていた。
 記事を書く前に、当時について母に電話で聞いてみると、母はテレビか何かで「普通に炊いたらおいしくない」という情報を得たため、白ごはんでは食べずにピラフを作ったらしい。しかし、子どものころに何度かピラフを食べているので、いつ食べたピラフがタイ米だったのか、覚えていない。
 
ブレンド米を白ごはんで食べておいしくなかった印象があったのだけど、私の記憶違いなのか、母の記憶違いなのか。

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タイの長粒米
いずれにしても、小学生ながらに「タイ米やカリフォルニア米はおいしくなかった」という印象が残ってしまった要因が、実際に食べて感じたからではなく、情報によって思い込んでしまったのだとしたら、残念でならない。
 
 私はこんなあいまいな記憶だけど、当時を覚えている人たちに、あのとき食べていたお米についてぜひ聞いてみたい。
 
たとえば、代々お米農家の夫の家では輸入米は食べず、しかしながら作ったお米はすべて売ってしまったため、「農家から買った中米を食べた」と言っていた。一方で、世界各国の本格料理を作るなど料理の腕が趣味の域を超えている近所のSさんは、当時すでにタイ米を使いこなしていたらしい。
 
ひとくちに「タイ米は不評だった」と言っても、タイ米はこんな味だったとか、こういう苦労をしてお米を手に入れたとか、こういう工夫をして食べたらタイ米もおいしかったとか、さまざまな感想やエピソードが埋まっていそう。
 
たった四半世紀でこんなにもタイ米へのイメージが変わり、食文化が急激に多様化したからこそ、当時のお米に対する庶民感覚は後世の貴重な資料だと感じる。

赤い魚

福島県の地方紙「福島民報」(2019.1.5.付)に会津地方に残る童謡が紹介されていた。

 

「正月さまはいいもんだ/雪のようなまんま(白米)食って/紅(べに)のような魚(およ)食って/油のような酒のんで/正月さまっていいもんだ」

 

福島県会津地方の夫の実家では大晦日の晩はハレのごちそうとして「赤い魚」「納豆」「大根おろし」「ごはん」を食べるため、「紅のような魚」「雪のようなまんま」という歌詞にちょっと興奮した。「もしかしたら赤い魚を食べるのは夫の実家だけなのだろうか…」とも思っていたけど、やはり同じような食文化の家はあるらしい。

 

お父ちゃん(義父)によると、「赤い魚」は昔はマスだったのではないかとのこと。今は焼いた塩ザケ。サケといえば焼ザケ定食とかおむすびのシャケとか、どちらかというとハレではなくケの魚のイメージで、お祝いと言えば「めでたい」の「タイ」だと思っていた。

 

でも、「サケ」ではなく「赤い魚」と呼び方を変えるだけで、ハレの魚に見えてくる。白いごはんに赤い鮭。紅白でたしかにめでたい。

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赤い魚

きっと昔は日常で赤い魚を食べることが少なかったのではないだろうか。日常的に食べていたらわざわざハレの食卓に赤い魚を登場させるだろうか。

 

いずれにしても、現代ではスーパーに行けばいつでも塩ザケを買うことができる。しかし、日常的に赤い魚を食べていたらハレの食卓のありがたさが薄まってしまう。思えば昨年の12月はサケを食べる機会がたまたまなかった。それだけに、大晦日に夫の実家でお母ちゃん(義母)が焼いてくれた赤い魚(塩ザケ)を食べ、しみじみとハレを感じた。今年も12月に入ったら大晦日のためにサケ断ちをしようと思う。