柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

食べられないもの

飲食店の予約時に「アレルギーや苦手なもの」をお伝えして、料理からそれらをしっかり抜いてくれるだけでなく、次回の予約時にそれらをしっかりと覚えてくださっている飲食店は一流だと思う。

 

逆に、アラカルトで2品オーダーしたときに、苦手なそれが入っていそうなメニューについて「入っていませんか?」とスタッフに確認して、もう1品のほうに苦手なそれが入っていないと思ってわざわざ尋ねなかったけれど実は入っていたときは、なんて不親切…と思うよりも、きっとこのスタッフは食べものへの興味が薄いか、自分や周囲の人にアレルギーや苦手なものがないのかもしれないなあとも思う。

  

インバウンドのありがたさを感じるのは、多様な宗教の人が訪日することで、ベジタリアンとかハラルとか、さまざまな食の価値観に目が向けられるようになり、アレルギーや苦手なものに対しても日本の人々が寛大になり、配慮が生まれるようになったこと。

 

10年ほど前はもうちょっと生きづらかったように思う。ちなみに、私は肉や乳製品などが食べられない。ここ数年の間でも「何でも食べないと不健康だよ」とか「肉が食べられないなんて、人生の8割は損してるね」と言われたこともあった。

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食べられないものは食べられない

あるお宅では「気づかないだろうから入れちゃえ」と嫌いなものを料理にこっそりと入れられたことがあり、もはや他人の作ったものはこわくて食べられない!と驚愕したこともあった(気づいて残したけど)。

 

「野菜嫌いの子どもに野菜を食べさせるには」というような内容の記事などで、「野菜を細かく刻んで料理の中へ」とか「ミキサーで粉砕して混ぜ込む」とか「ケチャップやマヨネーズなど味の濃い調味料で食べやすく(ごまかす)」などの“アイデア”が書かれているけど、私が子どもだったらそういった騙すようなことをされたら、もはや親のつくった料理をこわくて食べられない。

 

私は子どものころにピーマンが嫌いだったけど、今は食べられる。子どものころに好きだったカマボコは今は苦手だ。味覚や嗜好は人それぞれだし変化してゆくものなのだから、食べられないものがあるからといってただちに改善すべきことではないと思う。健康への配慮は必要だけど、われわれは健康のためだけに食べているわけではない。

 

「チョコレートは食べられない」「トマトは食べられない」「セロリやパクチーや春菊は食べられない」「とろろは食べられない」「椎茸は食べられない」「タマネギは食べられない」「生クリームは食べられない」「肉は食べられない」「生魚は食べられない」などなど、これまでにいろいろな人のいろいろな「食べられない」を聞いた。食べることの喜びや幸せを強く感じるからこそ、私は他人の「食べられない」を尊重したい。

天かす丼

外食では他人が何をどういう組み合わせで注文して食べるのか、とても気になる。ついつい周りのテーブルを見渡してしまう。

 

特にホテルの朝食バイキングは興味深い。海外では現地の人の朝食スタイルを知るのが単純に楽しいけど、日本では他人のごはんの量が気になる。ごはんを一粒も食べない人もいれば、おかずの量に比べるとあまりにも少ない量のごはんを食べる人もいれば、クロワッサンをおかずに白ごはんを食べる「クロワッサン定食」というツワモノもいる。ごはんをおかわりしている人を見ると、うれしくなる。

 

先日、丸亀製麺というチェーンうどん店でかけうどん(並)を食べつつ、他人が食べているものをチラチラのぞき見していたら、学生らしき男子が何かの丼を食べていた。その正体がすぐにわからなかったけど、少し経って気づいた。それは、ごはんに天かすを乗せた丼だった。

 

この店では会計後にネギや天かすやおろし生姜などを無料にてセルフでうどんに乗せられるシステムなのだけど、彼はかけうどんを頼まずに白ごはんだけをオーダーして、無料の天かすをどっさりと乗せていたのだ。

 

かけうどん(並)は290円。白ごはんは130円。たとえば、300円でかけうどんは1食しか食べられないけど、天かす丼ならば2食を食べられる。節約のためなのか、あるいは、そこまで天かすが好きなのか、彼が天かす丼を生み出した理由はよくわからないけど、クリエイティブな姿勢に心の中で拍手した。

 

ちなみに、以前に閉店直前の夜の定食屋で「ごはんが売り切れで麺類しかない」と言われたとき、夫はかけうどんと麻婆豆腐の肉抜きをオーダー。かけうどんの上に麻婆豆腐を乗せて「麻婆豆腐うどん」なるメニューを生み出していた。別の日には、スパゲティナポリタンのハム抜きと白ごはんをオーダーして「ナポリタン定食」。また別の定食屋では、焼きそばの肉抜きと白ごはんをオーダーして「焼きそば定食」なるメニューを生み出していた。夫が食べているものを見た男性客が「あれと同じの」とオーダーしているのがおかしかった。

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「ナポリタン定食」。ハム抜きにしたら具が皆無。ハムだけのナポリタンらしい。

この定食屋で夫の友人はカツカレーのカツをエビフライに変えてほしいとお願いして、「エビフライカレー」なるものも生み出していたという。これを単なるワガママと見るか、食へのこだわりと見るか。もしかしたら店の人にとってはメイワクかもしれないけど、自分がおいしいと思うものを食べたいと思う気持ちはとてもよく分かる。

 

店が客においしいものを提供しようとするのはもちろんとして、客の食への貪欲さから出てきた発想によって新たなおいしさが生まれる瞬間はちょっと感動する。以前にある定食屋に行ったら、壁を埋め尽くすほど大量の品書きが貼られていた。店主いわく、「お客さんの要望に応えていったらどんどんメニューが増えていった」そうだ。こういうお店にはいろいろな人の「おいしい」が詰まっていて、とても素敵だと思う。

玉子丼が食べられない

あんなに好きだった玉子丼を食べたいと思えなくなった。いつも気持ち悪い。風邪でもひいたのだろうか…と思ったけど、どうやら風邪ではなさそう。電車の中で吐きそうになりながら、あーつらい、あーつらい、と思いながら生活していたら、妊娠2カ月だった。

 

思い起こせば、年明けくらいから味の好みや感じ方に変化が出始めた。いつもは好きなシャケおむすびがしょっぱく感じられたり、正月に実家に帰省したときは、あんなに好きだった煮しめにいつもより箸が伸びず、かんぴょう巻にも箸が伸びなかった。

 

私はつわりによって甘じょっぱいものが苦手になるタイプらしい。でも、なぜか蕎麦や素麺は大丈夫。つるっとさわやか。

 

炊きたてごはんの香りがダメという妊婦もいるそうだけど、私はあいかわらずごはんが好きなままで良かった。ごはんが食べられなくなったら悲しすぎる。今は納豆ごはんがやたらとおいしい。エブリデイ納豆ごはん。

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あまりにもおいしい納豆ごはん

おむすびは昆布とか佃煮とか甘じょっぱい具が苦手になった。塩を効かせた塩むすびがいい。

 

驚くべきことに、先日ある生産者のコシヒカリを食べたら、苦く感じた。いつもおいしいお米なのに、いったいどうしたのだろうか。夫が食べるのを待って「このお米、苦くない?」と聞くと、「苦くない」。夫の味覚を信用しているので、この生産者のお米が苦くなくてほっとしたのと同時に、自分の味覚がいつもと違うことに不安を覚えた。

 

先日有機栽培の肥料と堆肥の取材で、虫も人間も腹に卵(子)を抱えると嗅覚が敏感になるとは聞いたけど、味覚も変わるのだろうか。

 

食べられるものと食べられないものがその時のつわりの重さでころころ変わるけど、次に定食屋に行ったときは玉子丼ではなく、目玉焼き定食(正確にはハムエッグ定食のハム抜き)の目玉焼きとポテトサラダと千切りキャベツに醤油をまわしかけて大盛り白ごはんを頬張りたい。

 

タイからコシヒカリを逆輸入

昨年9月、タイに行ったときに、現地で販売されていたJAの新潟県産コシヒカリ2kgを購入。日本に“逆輸入”した。

 

購入したのは現地の米店。冷蔵ケースでお米を販売していた。しかし、この新潟県産コシヒカリの精米年月日は7ヶ月前の2月だった。

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冷蔵ケースの中で販売されていた新潟県産コシヒカリは精米年月日が7ヶ月前

 現地の百貨店やスーパーなどでは、精米年月日が数カ月なんて当たり前。

 

日本では、棚の手前が古い精米年月日、棚の奥が新しい精米年月日が当たり前だと思っていたけど、ある百貨店ではタイ産日本米も日本産日本米もそうした配慮はまったくなかった。

 

あるタイ産日本米を見ると、棚の手前のEXP(Expirty Date=消費期限)が10ヶ月後で、棚の奥のほうは7ヶ月後(タイでは精米年月日ではなく消費期限を表示するらしい)。こんな管理の仕方では日本米の味が誤解されてしまうから輸出しないほうがいいんじゃないだろうか…と思った。

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手前が新しく、奥が古い。このままだと奥のお米はどんどん古くなってゆく…

冒頭の店では、タイ産日本米に関しては、冷蔵ケースの中で5分搗き米(なぜか生産地で分搗きにして輸送されるらしい)を陳列し、その場で7分搗き米や白米に精米。あるいは、精米から7日以内のお米のみを販売していた。

 

精米から7日後に購入したタイ産日本米を日本で炊いてみると、タイ産日本米はふけてはいないものの、食感が少しぼそっとした感じ。新潟県産コシヒカリは、ふけていた。

 

タイのインディカ米は、白米・常温の保管が当たり前。そして、古米が好まれる。

一方で、日本米は、玄米・低温の保管が当たり前。精米してしまうと劣化が進み、古米臭は嫌われる。

 

それぞれのお米の特性に合わせた管理・炊飯をしないと、お米の特性が正確に伝わらない。モノの輸出はただモノを動かせば良いわけでなく、モノと知識(保管方法や炊飯方法など)と食文化(食べ方)をセットで提供すべきだと感じる。

お米との出会いをくれた人

夫から「炭酸水でごはんを炊く」「炭酸水でごはんを炊く・その2」の文章は「興奮が伝わってこない」と言われた。

 

そう、興奮していない。どこかで炭酸水炊飯はどうでもいいと思っている。

普通に水で炊けばいいじゃんと思う。でも、その水の硬度やphやミネラルなどの影響についてはとても興味がある。

 

新聞記者時代から「カシワギは好き嫌いが激しすぎる」と言われた。まったく否定しない。

 

いくつかのメディアで新聞記者時代にお米に傾倒するきっかけになったきっかけについて、「田んぼだらけの住み込み支局で四季折々の田んぼの風景の移り変わりを見て、米農家を取材して、お米について調べるうちにお米はただの農産物ではない!と気づいた」などという話をしていた。後半はその通りだけど、前半はちょっと違っていたことを今さら思い出した。

 

住み込み支局に異動になる前、別の総局にいた。そこで出会ったのが「小田原めだか米」を運営している元教員の山田純さんだった。「小田原めだか米」とは、在来めだかを守るために低農薬で作ったお米。山田さんはお米を農家から再生産可能価格で買い取り販売している。彼にお米と田んぼと生き物の関係を教えてもらったのがお米に傾倒してゆく最初のきっかけだったのだ。

 

どういう田んぼが生き物にとって良いのか、稲作がどれほどの生き物を育むのか、お米の再生産価格をどう計算するか、私たちがお米を食べることの意味、この田んぼはどこからどのように入ってくる水でお米を育てているのか、などなど。お米というものはこんなにも、歴史的、文化的、民俗的、地理的に壮大なものなのかと衝撃が走った。

 

その直後にまさかの異動辞令。泣く泣く赴任した先の住み込み支局の周りは田んぼだらけ…というわけだった。どうして今まで忘れていたのだろうか。住み込み支局勤務時代に見た田んぼの四季折々の風景がよほど心に焼き付いていたからかもしれない。 

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手作りキッチンカーの車内に自分で障子も作った

あれから10年ほど経つ。けっきょく私は元来の好き嫌いの激しさから、好きなことを追究したい思いがおさえられず、新聞社をやめた。

 

山田さんのおかげでお米の魅力に出会うことができ、その後は、お米農家と手作りキッチンカーでのおむすびケータリングを経て、今はお米ライターをしながらお米農家のヨメになっていますよと彼に報告したい。

炭酸水でごはんを炊く・その2

炭酸水でごはんを炊く」とはちょっと違う炭酸水炊飯をしてみた。

 

今回はウィルキンソン。浸水から炭酸水にして、4時間30分後に早炊きしてみた。

浸水時からお米と炭酸水が化学反応を起こしているかのような大きな白い泡がシュワシュワと出ていた。不安。

 

炊けてから炊飯器のふたを開けるとふたの裏に白い付着物が。普通の水で炊飯したときにはこんなに付かない。炊飯中にシュワシュワしていたのだろうか。

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炭酸水炊飯によるふたの裏の白い付着物

ごはんのツヤは普通。食感はもちもちとしてやわらかで、粒張りはなく弾力がない。お米の甘さがしっかりと出ていた。冷めてからもやわらかもちもち。なぜだろう。炊飯器だと中身が見えないので、透明の耐熱ガラス鍋で炊いてみようと思う。

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もちもちやわらか。弾力がものたりない

私はしっかりと弾力があるごはんが好きなので物足りなかったけど、やわらかいごはんが好きな人には良いかもしれない。

 

それにしても、前回の炊飯結果との違いがナゾ。炭酸水の違いが要因か。浸水を普通の水にしたことが要因か。ゆるやかに実験は続く。

炭酸水でごはんを炊く

ソーダメーカーのCMで炭酸水でごはんを炊くとおいしいと言っていた。

 

インターネットで検索すると、炭酸水で炊飯すると「ツヤツヤふっくら」「もちもち」「ツヤもちふっくら」「冷めてもやわらかい」などなど書かれている内容はどれも良いことづくめ。ある記事には「炭酸の泡が米粒を立ち上がらせながら均等に熱を伝えるので、べちゃっとせず、ふっくら炊きあがる」と書いてあるけど、どうもよくわからない。

 

そこで、実験してみた。

 

浸水は普通の水(南アルプスの天然水)。炊飯は炭酸水(南アルプスの天然水スパークリング)。なぜならば、浸水はいつも6時間ほどかけるから。

 

以前に行った炊飯実験で、冷蔵庫で6時間浸水したものよりも、冷蔵庫で30時間浸水したもののほうが旨みがしっかりと出た。ただ、いつも30時間浸水させるのは大変なので、ベストと言われることが多い3時間浸水ではなく、6時間で浸水するのが常となっている。

 

今回は6時間も浸水させたら炭酸が抜けちゃうので、浸水は普通の水にして、炊飯するときに炭酸水に取り替えることにした。浸漬水に流れた旨みは逃げてしまうけど、今回は目をつむる。同じ型の炊飯器2台で普通の水と炭酸水で早炊きした。

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同型の炊飯器2台で比較実験

結果、ふたを開けた瞬間は、普通の水はふっくらして見え、炭酸水はつぶれているように見えた。あらら?しかし、ツヤは同じ。食感は、普通の水のごはんはおねばがあって甘みがあり、炭酸水のごはんは粒がしっかりと張っていて甘みがある。粒がしっかりめのごはんが好みなので、おお!たしかに炭酸水炊飯はおいしいかも?と思ったのもつかの間、冷めてきたら普通の水のごはんも粒がしっかりとしてきた。そして、普通の水のごはんは冷めても舌触りがなめらかなままだったけど、炭酸水炊飯のほうは舌触りが悪くざらついてきた。保水膜が少なく、水分の飛びが早いのだろうか。

 

まだ1回しか実験していないので、なんとも言えないけど、炭酸水炊飯ってそんなに良いのかなあと疑問を抱いている。ただし、あくまで途中経過。炊飯器も同じ型とは言え、誤差があるかもしれない。何か手順に問題があったのかもしれない。比較実験はむずかしい。実験はゆるやかに続く。