柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

お豆腐のうなぎ蒲焼き風弁当

もうすぐ土曜丑の日。タレが甘いうな重は苦手だけど、タレが甘すぎないうな重は好きだ。

妊娠初期に妊婦が控えるべき食べものを調べると、「うなぎ」も含まれていたので、うなぎ断ちをした。

「産後はうなぎ屋に行きたい!」と言っていたが、娘がまもなく2歳になるというのにうなぎ屋にはいまだに行けていない。

その理由は、動き回って叫びまくる娘を連れてうなぎ屋に行っても落ち着いて食べられるはずがないから。夫と一緒ならどうにかなるかもしれないが、夫はベジタリアンなので、うなぎ屋に行っても夫が食べられるものがない。

夫と一緒にうなぎを食べる機会は後にも先にもないだろう。しかしながら、先日、初めて夫と一緒にうなぎ弁当を楽しむことができた。

正確には「お豆腐のうなぎ蒲焼き風弁当」。

料理家・わらがやしほさんがすべて福島県の食材で作ったお弁当で、お豆腐と海苔を使ったうなぎそっくりの蒲焼きがごはんの上にのっている。

f:id:chihoism0:20210705122119j:image

食べてみると、食感もふわふわとしていてうなぎのよう。台湾の素食や北鎌倉の精進料理で豆腐を使ったそぼろを食べたことはあったけど、豆腐がうなぎに変身するとは驚いた。f:id:chihoism0:20210705122115j:image

以前にうなぎの代わりに茄子で蒲焼きを作ったことはあったけど、それは単に茄子の照り焼きだった。しかし、このお弁当の豆腐の蒲焼きはうなぎを食べているときのような満足感がありながらも、後味がさっぱりとしていた。口内や胃がなんとも心地よい。

私が食に求めているものの一つは「後味の良さ」なのだと改めて感じる。

和食が好きなのも、食べている時の優しい味わいやホッとする感覚だけでなく、食べた後の心地よさも大きなウエイトを占めている。

生ねぎ、にんにく、生たまねぎが苦手なのも、食べた後に口の中がそのにおいで占領されてしまうためだ。

動物性では魚と卵しか食べられないが、魚で言えばトロが大の苦手。食べている時の脂感が好きではないことに加え、これも食べた後の口の中がスッキリしないことや、脂で胸焼け気味になることなどが理由だ。

食事は味や食感だけでなく「食べ心地」「後味の良さ」が重要だと再認識するおいしいお弁当だった。

わらがやしほ

https://waragayashiho.wixsite.com/mysite

おべんとうばこのうた・その3

「おべんとうばのうた」に続き、「おべんとうばこのうた・その2」を書いた後、近所の図書館で「おべんとうばこのうた」(構成・絵 さいとうしのぶ/ひさかたチャイルド)を発見した。

f:id:chihoism0:20210623124240j:image

素晴らしい絵本であった。

おにぎりから始まり、刻みしょうが、ごま塩、にんじん、さくらんぼ、しいたけ、ごぼう、れんこん、フキが登場する。そして、おにぎりや野菜たちが、わらべうた手遊びの振り付けをしている。完成したお弁当のおいしそうなこと。

f:id:chihoism0:20210623124322j:image

あまりにもおいしそうなので、1歳の娘がもう少し大きくなったら歌の通りのお弁当を作ろうと思った。刻み生姜の辛味やフキの風味はまだ無理そうだけど。

f:id:chihoism0:20210623124407j:image

しかし夫はこのお弁当が特別おいしそうだとは思えないらしい。たしかに先日、フキの炒り煮を作ったら、「おれは田舎者だから田舎料理はあんまり」と言っていたので、フキの炒り煮好きな私がひとりじめした。

田舎と都会の線引きは人によって基準が違いそうだが、私の母は田舎出身だと思う。「煮物がないと落ち着かない」と言って、夕食の食卓にはほぼ365日なにかしらの煮物があった。カレーの日も煮物はあった。

その血を受け継いだというか、習慣を受け継いだというか、私もまた煮物がないとなんだか落ち着かないというか、物足りないというか。

おべんとうばこのうたの歌詞通りのお弁当は、おそらく、にんじん、しいたけ、ごぼう、れんこん、フキは煮物ではないかと思う。

煮物好きの私はこのお弁当をおいしそうだと思うけど、もしかしたら夫のようにおいしそうだと思わない人は多いのかもしれない。

とは言え、娘はこの絵本を見て喜んでいる。娘の楽しそうな様子を見ていると、やはりわざわざ歌詞を改変しなくて良いのでは、と感じる。大人の感覚で先回りしすぎると子どもの世界を狭めてしまっておもしろくない。思い返すと、子どもの頃は食卓に子ども向けのおかずはなかった。食べたいおかずがない時は、ほとんどごはんと味噌汁で終わりにしていた。そして夕食後に父が酒の肴に焼いたスルメイカをもらってかじったりしていた。

先日も実家に帰った時、父が酒の肴に七輪で焼いた魚の味醂干しを小学生の甥っ子や姪っ子がおいしそうに食べていた。そうやって子どもの味の幅は少しづつ広がっていく。フキの煮物や刻み生姜もいつか好むようになるかもしれない。

割れたお米はベチャベチャになる?

巨大胚芽米は玄米専用米である。なぜならば、精米すると胚芽がポロリと取れてしまって巨大胚芽の意味がないから。

さらに、「胚芽が剥離した部分からデンプンが溶解してベチャ飯になる」という話も耳にした。本当にそうなのか、実験してみた。

使ったのは、巨大胚芽米「カミアカリ」。家庭用精米機で精米してみたところ、胚芽が取れて小粒な仕上がりに。

f:id:chihoism0:20210617131306j:image

炊いて食べてみたところ、予想に反して、ベチャベチャしなかった。ただ小さい細かいお米を食べているという舌触り。

f:id:chihoism0:20210617131837j:image

一方で、「胴割れ米、破砕米は食感が悪い」という話も耳にする。実際に、胴割れと破砕が多いお米を炊いて食べると、ベタベタにちゃにちゃとした食感になりがちだ。

ということは、胴割れそのもの、破砕そのものが、ベチャベチャ、ベタベタ、にちゃにちゃとした食感を生み出しているというよりは、胴割れや破砕を生じさせている米質そのものが、ベチャベチャ、ベタベタ、にちゃにちゃとした食感につながっているのではないだろうか?という仮説を持ったのだが、どうなんだろう。

浄水で炊いたごはんはおいしいのか

ブリタの浄水器を愛用している。飲み水は水道水に比べると明らかにクリアだ。

ならば浄水で炊いたごはんも水道水で炊いたごはんよりもクリアな食味になるのだろうか?

というわけで検証してみた。

いずれも冷蔵庫にて長時間浸漬した後、炊飯器の早炊きモードで炊いた。
炊き立ての香りは違いが分からず、味も違いが分かりづらい。加熱すると違いはさほどないのか?と思ったが、30分ほど保温すると水道水炊飯のごはんには若干の雑味が感じられるようになり、やはり浄水炊飯のほうがクリアだと感じた(雑味の一言でまとめて良いのかわからないけど、水道水炊飯のごはんには表現が難しい風味を感じた)。
f:id:chihoism0:20210616230214j:image
f:id:chihoism0:20210616230210j:image
とは言え、今の住まいの水道水は普通においしい。以前に某県某市に住んでいた時はあまりにも水がまずくて水が飲めなくなった。トラウマでしばらく市販のミネラルウォーターやナチュラルウォーターさえも飲めなくなり炭酸水しか飲めなくなった時期があった。というわけで、水道水と浄水の差異は地域によって違うと思う。

水がそれなりにおいしい地域に住んでいることに気づかされ、日々の水の恵みに感謝の念を抱く実験となった。

炭酸水でごはんを炊く・その3

炭酸水炊飯はおいしいというweb記事がいくつもあるので、本当にそうなのかどうか、2年ほど前に何度か試してみた(「炭酸水でごはんを炊く」「炭酸水でごはんを炊く・その2」)。

 

ただ、正しい炭酸水炊飯の方法がわからず、洗米から炭酸を使ってみたところイマイチだった。そこで、久々に炭酸水炊飯をやってみた。

炭酸水との炊き比べのために使った浄水は水道水を濾過したもの。硬度30mg/Lほど。

前回は浄水ではなくサントリー天然水を使ったのだけど、今回は硬度を見てみると10〜80mg/Lという表記に変わっていて、幅がありすぎてわからないのでやめた。

 

そして炭酸水は、ソーダストリームを使えば硬度を変えずに炭酸水を作ることができそうだが、普段炭酸水を飲むことが多くないので数年前の引っ越し時に手放してしまった。

というわけで炭酸水は、サントリー天然水スパークリングを使うことにした。しかし、同じ商品でもあるボトルは南アルプス採水で硬度20〜30mg/Lと表記されていて、あるボトルは奥大山採水で硬度20〜30mg/Lと表記されている。

f:id:chihoism0:20210608125734j:image
f:id:chihoism0:20210608125730j:image

できれば浄水に合わせて30mg/Lを使いたい。カッコ書きで奥大山は20mg/Lと書かれ、南アルプスは30mg/Lと書かれていてよくわからないけど、南アルプス採水のボトルを使ってみた。

そして、水温による違いが出ないように、事前に浄水も炭酸水も冷蔵庫で冷やして温度を一定にした。

まずは、浄水炊飯と炭酸水炊飯の両方のお米を冷蔵庫で長時間浸漬させた後に、炭酸水炊飯のほうだけ浸漬水を捨てて炭酸水を加えて炊飯器の早炊きモードで炊飯した。すると、炭酸水炊飯のほうだけごはん粒の表面が溶けているような舌触りだった。

翌日、浄水炊飯と炭酸水炊飯のお米をそれぞれ浄水で洗った後に、炭酸水炊飯のほうは炭酸水で浸漬。15分後に炊飯器の普通炊飯モードで炊いた。

 

蓋を開けると炭酸水炊飯のほうがツヤがある。やはり炊き立ては炭酸水炊飯のごはん粒は表面が溶けているように感じた。30分ほど保温してみると、浄水炊飯のほうが弾力があるように感じた。

2年前に炭酸水で洗米した時にシュワシュワと反応して白い塊が炊飯器の蓋にたくさん付着したことを思うと、酸で溶けているのでは…と思うのだけど、どうなんだろう。わざわざ炭酸水を使って炊飯するメリットをどうしても感じない。それとも私の炊飯方法が間違っているのだろうか。実験はゆるやかに続く。

ごはんおかわりロボ

「ブランド米開発競争」(熊野孝文著・中央公論新社)に株式会社プレナス が運営する「やよい軒」はお米にこだわり、仕入れるお米は一般的な検査以外に保水膜の検査まで行う、と書いてあったので、プレナス の本部に味度メーターを導入してるのか、すごい!と思って10年以上ぶりに食べに行ってみた。

白米だけど胚芽がついている。パンフレットに「金芽米」と書いてあるのを見てようやく気付いた。味度メーターを開発した東洋ライスのお米であるということに。

 

以前に味度メーターの取材で東洋ライスにおじゃましたときにランチでほっともっとのお弁当をいただいた。それも金芽米だった。プレナス はほっともっともやよい軒も運営している。おそらく本部で味度メーターを使っているのではなく、東洋ライスにて味度メーターを使って保水膜の厚さを調べて基準にクリアして金芽米になれたお米を使っているということなのでは。

1人で盛り上がったのは「ごはんおかわりロボ」。

f:id:chihoism0:20210606232331j:image

ごはんおかわり自由と知って喜んでおかわりを取りに行ったらジャー的なものがない。

しばらく探してようやくドリンクバー的なものがごはんおかわりバー的なものだと気づいた。

 

興奮が抑えきれず、店員さんに「写真撮っていいですか?」「これすごいですね!」と言ったら「コロナ禍で導入しました」と教えてくださりナルホド。

ごはんの量を選ぶことができ、なんと「一口」も選べるのがすごい。そして驚いたのは、人間がしゃもじでごはんをよそうよりもふうわりと茶碗におさまる(ごはんをよそうというかごはんが落ちてくる)。

f:id:chihoism0:20210606232357j:image

ごはんがガチャリと落ちてくるのは味気ないという人もいるかもしれないし、そう思わないでもないけど、おかわりロボのよそり方はうまい。

 

ホテルの朝食バイキングなどおかわり自由の時は、ジャーの中のごはんがアイスクリームのようにそぎとられているのか嫌で、自分のぶんをよそった後にジャーの中のごはんをほぐしたりしてしまうけど、ごはんおかわりロボならばごはんのよそりかたでおいしさが変わってしまう心配もない。

 

炊飯後どれくらい経ったごはんを提供時間の上限にしているのか、そもそも中の仕組みはどうなっているのか、いろいろ興味深い。

悔やまれるのは午前10時50分に入店したのに、朝定食の鮭定食ではなく、普通の鮭定食にしてしまったこと。朝定食のほうが焼き海苔がついてた(しかも安い)。またごはんおかわりロボのボタンを押しに行きたい。

おべんとうばこのうた・その2

以前に書いた「おべんとうばこの歌」で、「♪おむすびおむすびちょいと詰めて」が「♪サンドイッチサンドイッチちょいと詰めて」に変わっているという衝撃の事態について書いた。

「♪刻み生姜にごま塩かけて」の部分は、「♪からしバターにマヨネーズ塗って」に変わっているとのことだったが、先日このことを取り上げていたテレビ番組(NHK総合「所さん!大変ですよ)では、「♪からしバターに粉チーズふって」になっていた。

 

「♪筋の通ったふーき」が「♪筋の通ったベーコン」になっているのは同じだったが、そもそも筋の通ったベーコンって何だ。ベーコンの作り方を調べてみると、筋切りという工程がある。筋の通ったベーコンはそもそもおいしくないんじゃないだろうか。

f:id:chihoism0:20210529133448j:image

番組ではこの改変の理由について、「刻み生姜」や「ふき」が「馴染みのない食材だからだそうだ」と紹介していた。

われわれが子どもの頃は「おべんとうばこの歌」を喜んで歌っていたし、刻み生姜もふきも「そういう食べ物があるんだなあ」くらいに思っていたはず。そして、成長していずれは歌詞と食材が結びつく。

そもそも子どもの「馴染みある食べもの」を作り上げているのは大人だ。大人がサンドイッチやベーコンを与えていればサンドイッチやベーコンが馴染みある食べものになる。

たしかに刻み生姜は刺激があり、ふきは香りが強い。苦手な子のほうが圧倒的だと思う。だからと言って、歌詞をまるごと変えてまで、子どもを取り巻く世界のすべてを子どもの「馴染みあるもの」にすべきなのだろうか。馴染まないものを知る機会を奪ってしまうのはあまりにつまらない。

 

番組では、他にも「♪ハンバーグにエビフライ/ミートボール/やきにく/ケチャップかかったスパゲティ/とても甘いメロン」という歌詞も紹介していた(どのメロディーに当てはまるのかわからなかったが、おそらく「♪刻み生姜に」以降の歌詞か)。

スーパーヘビーで大人でも胃もたれしそうな組み合わせだが、どこかで見たことがあるなあと思ったら「お子様ランチ」だった。

 

お子様ランチを作っているのは大人だ。「子どもが喜ぶから」という理由はあまりにも子どもの味覚や健康、食文化を無視した刹那的で無責任な言葉だと思う。

 

改変した「おべんとうばこの歌」を大人が子どもに教えている状況下で、「食育」という言葉はあまりにも薄っぺらい。今では「食育」は「なんとなく良さそうな雰囲気を醸し出す便利な言葉」として使い倒され、名ばかり食育が蔓延しているように思う。