柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

粘るコシヒカリでもパラパラ炒飯はできる

ベトナムで食べた長粒種の炒飯はパラパラでおいしかった。日本のお米だとここまでパラパラ炒飯は作れないだろうなあと思っていたら、あった。コシヒカリのパラパラ炒飯。東京・広尾にある中華料理店「春秋」。卵とネギだけのシンプルな炒飯は、お米がパラパラのほろほろ。本当にコシヒカリ?と思うほどの食べ心地だ。

 

調理前のごはんを見せてもらうと、炊いてあるにもかかわらず、まるで生米のようにパラパラ。その秘密は、炊飯後の一仕事。オーナーシェフの宮内敏也さんの妻・加久子さんによると、炊いたごはんは完全に冷ましてから冷蔵庫に入れ、水分量を調整していく。このとき、空気が入るように隙間を作りながら広げたり、水滴が入らないように気をつけたり、裏返したりと丁寧に管理。2日経つと、生米のようでありながら、しっとり感もあるお米に仕上がる。

 

お米は加熱や水分量の増加によってデンプンを「アルファ化」させることで、ふっくらと柔らかくなり、消化しやすくなる。これが、いわゆる炊飯。そして、この状態から冷却や乾燥によって硬い状態に戻るのが「ベータ化」。この店では冷蔵庫でベータ化させたお米を最後にさっと炒めることで、絶妙な食感の炒飯に仕上げている。お米のデンプン特性を利用することで、コシヒカリでも軽やかな食べ心地のパラパラ炒飯に仕上がる。お米は使い方によってはいくらでも伸びしろがあるのだ。

 

日本農業新聞コラム「柏木智帆のライフワークはライスワーク」)