柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

まずは餅を放置する

「餅なし正月」について調べてみると、その理由はさまざまだが、ある論文の証言の中に「先祖が餅をのどに詰まらせたから」という理由も載っていた。餅をのどに詰まらせるなんてそう簡単にはないと思っていたけど、「おじいちゃんがのどに詰まらせて危なかった」とか「先祖が餅をのどに詰まらせて亡くなった」とか、意外に餅をのどに詰まらせる人が多いことを知った。

 

会津若松市にあるバー「時さえ忘れて」に飲みに行ったら店主のケースケさんは「危険な思いをしてまで餅を食べたいとは思わない」と言っていた。たしかに海外では「なぜ毎年餅で死者が出ているのに日本人は餅を食べるのか」とか「死ぬほど餅が好きなの?」というふうに見る人もいるらしい。

 

そう言われてみると、たしかに昔から死者が出ているのに、われわれは餅は食べている。正直言って「自分は大丈夫」と思っている。なぜなら、私はやわらかい餅よりも硬い餅が好きだ。搗きたて焼きたてよりも、搗いたり焼いたりしてから数時間置いて少し硬くなったものがおいしいと思う。

 

しかし、このことに気づくまでにずいぶんと時間がかかった。餅は見た目は搗きたて焼きたてがおいしそう。だから、あわてて熱々にかじりついていた。でも、見た目とのギャップが大きい。「あれ、もっとおいしいと思ったんだけどなあ」と物足りなさを感じていた。

 

最近になって、お雑煮は最初に具を食べて、少しつゆが冷めたころに餅を食べたり、磯辺餅も焼いた餅が冷めて硬くなったころに食べると、満足感が倍増することにようやく気づいた。正確に言うと、気づいてはいたけど、おいしそうなビジュアルに目がくらんでしまい、お雑煮も焼いた餅を熱々のうちにかぶりついては「あれ?」と見た目とのギャップにひそかにがっかりしていた。夫からは「あなたは硬いものが好きなだけだ。搗きたてうまいだろう。餅は飲み物だ」と言われたけど。

 

今日は夫と揚げ餅そばを食べに行った。温かいかけそばの上に、揚げた餅や大根おろしなどが浮いている。

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揚げ餅そば

また最初にうっかり餅にかぶりつくと、餅がやわらかすぎるだけでなく、揚げた餅の表面の油がすごかった。口の中が油でぎとぎと。これは厳しい。揚げ餅をそばの中にうずめてしまったら、たちまちそばも油でぎとぎとになりそうだ。どうしようか。

 

そこで、一度揚げ餅を小皿に移して、そばを先に食べた(大根おろしは揚げ餅のためにとっておく)。そして、そばを食べ終わったころに揚げ餅をどんぶりのツユの中に浸して食べる。すると、油がツユに浸されて「揚げ出し豆腐」ならぬ「揚げ出し餅」になり、油が薄まりツユも絡んで食べやすくなった。

 

しかも、結果として思いがけず餅が冷めてちょうどいい具合に硬くなっていた。正直、最初にどろーんと揚げ餅がやわらかかったときは、「あーがっかり」と思っていたけど、冷めて硬くなった揚げ餅はおいしかった。力餅そばなどを食べるときも、まずは餅を放置するのが良いと確信した。

 

「まず餅は放置する」。こうやって餅と付き合っていくと、のどに詰まるという事故も少なくなって、みんなが餅を楽しめるのではと思う。