冬になったら夫がほぼ毎日のように白い粉を飲むようになった。
夫はお兄ちゃんとお父ちゃんと一緒にお米を作っている米農家。住んでいる地域は豪雪地帯なので、冬は何も作らない。農家はみんな一時的にサラリーマンになる。
お兄ちゃんは除雪、お父ちゃんはスキー場のリフト案内、夫は雪山で木こり。
寒い寒い雪山で斜面を歩くだけでもつらいのに雪山を歩くためには脚を高く上げなければならない。歩くだけでも足腰が強靭になりそうだ。さらに、ケガを防ぐために着用しているチェーンソーズボンが重たい。洗濯するときにチェーンソーズボンを持つと、これをはいて雪山の斜面を歩くのかとゾッとする。さらに、木を切るためのチェーンソーもきっと重たいのだろうと思う。
夫はお米がおいしいときは1食で2合も食べたり、搗いた餅を1食で1升も食べたりする。仕事の休憩時には周りがタバコで一服しているときに自分はタバコが吸えないので「たけのこの里」とか「さくさくぱんだ」などのお菓子をぼりぼり食べているらしい。それでも、使うエネルギーが多いのか、冬になるともともと痩せているのにさらに痩せているような気がしていた。
そんな夫が今年の冬仕事が始まった12月に買ってきたのが白い粉。プロテインだった。朝仕事に行く前と夜寝る前に、専用の容器に水とプロテインを入れてシャカシャカ振って一気飲みしている。
私も小学生のころプロテインを飲んでいた。正確に言うと、飲まされていた。
スイミングの練習がハードだったにもかかわらず、とても食が細かった私にスタミナをつけさせようとしたのだろう。母が朝夕の2回、シャカシャカとプロテインドリンクを作ってくれた。マスターズチームで水泳選手をしていた父もプロテインを飲んでいた。「勉強したのか?」とは言わないけど、「腹筋したのか?」「腕立てしたのか?」と口うるさく言う父。きっと、父が娘たちにプロテインを飲ませるように母に言ったのかもしれない。
当時の私は学校の給食を完食することすら大変で、夕飯前にヤクルトのちっちゃいりんごジュースを1本飲んだだけで夕飯が食べられなくなるような私が、小学校高学年でケンタッキーのバケツサイズをぺろりとたいらげるような他の選手たちに勝てるはずがなかった。母からはプロテインについて「力がつく」と聞いていたので、試合当日に飲むときは「これニュースで見たドーピングってやつじゃないかな?」とドキドキしていた。
夫がプロテインをシャカシャカしてぐいっと飲む様子を見るたびに、厳しい練習を恐れながらプロテインを一気飲みしたことや、コーチにビート板を投げられたことや、居残り練習で半分照明を消された薄暗いプールで泳いだ記憶など、いろいろなものが蘇ってくる。
先日、実家に帰ったら70歳半ばの父がまだプロテインを飲んでいた。