柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

イタおいしい

わが家は夫婦そろって偏食なので、他の家庭に比べて毎日の献立の幅は狭いかもしれない。食卓にいつも登場していたのは煮物。あとは、胡麻和えやきんぴらごぼうなど。でも、妊娠して甘じょっぱいものが苦手になったため、煮物をまったく作らなくなってしまった。胡麻和えも作っていない。ただでさえ狭かった献立の幅が、さらに狭くなってしまった。

 

「妊娠したら今まで食べられなかったものが食べられるようになった」という声を聞いていたので、私は何が食べられるようになるんだろうと楽しみにしていたけど、今のところ「おお!食べられなかったものが食べられる!」という発見はない。むしろ、食べられていたものが食べられなくなった。甘じょっぱいものの他に、好きだった目玉焼きの目玉の濃厚さは、今ではくどく感じる。実家に帰ると母が作った「あぶらみそ(茄子味噌炒め)」が好きで食べていたけど、先日は箸が伸びなかった。

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久々にハムエッグ定食のハム抜きを食べたのに、目玉焼きよりも付け合わせの千切りキャベツがおいしいと思ってしまった

ただ、「食べられなかったもの」というか「食べられるけどどっちでも良かったもの」「食べられるけど特に積極的に食べなかったもの」は食べたいと思うようになった。

 

たとえば、みかん。冬になると実家ではいつも箱買いしていたけど、私は食べなかった。でも、先日自然栽培農家さんがダンボール1箱送ってくれたみかんがおいしい。

 

さらに酸っぱいものも食べたくなり、スーパーに並ぶ柑橘類の中で最も糖度の低いもの(低いからといって酸っぱいのか分からないけど)を選んだのだけど、買った「はっさく」本当に酸っぱくて、食べると若干の息切れがするので少しずつしか食べない。でも、食べたくなる。

 

あとは、辛いもの。きんぴらごぼうは以前からしつこいほど作っていたけど、胡麻油で炒めて唐辛子は入れない「辛くないきんぴらごぼう」だった。でも、やたらと辛いきんぴらごぼうが食べたくなり、昨年作った辣油で炒めてみたら辛くなった。口の中が痛い。イタおいしい。

 

夫婦そろって肉を食べないわが家には、水切りした豆腐と刻みニラと片栗粉を混ぜて小さく丸めて蒸した「豆腐シウマイ」なるオリジナルメニューがあるのだけど、今週は月・火・水曜日に作って、さすがに夫は飽きただろうかと気を遣って木曜はやめた。でも、金曜日に再び作った。これも、昨年作った青唐辛子醤油につけて食べたら、イタおいしい。

 

さらに、肉を入れない麻婆豆腐春雨というオリジナルメニューもあるのだけど、辣油と花椒と豆板醤を増量させてみた。夫婦で「痛!」「辛!」と苦しみながら食べた。

 

辛いものは辛いがゆえにたくさんは食べられないけど、それでも辛くしたくなる。

 

先日、東北大学名誉教授(口腔診断学)の笹野高嗣さんに取材させていただいたとき、「東北大学の研究調査でタイ人と日本人の味覚検査をしたところ、辛い料理を好むタイ人は料理の味が濃くないと味を感じず、出汁の文化がある日本人は繊細なうま味を感じることが分かった」とうかがった。

 

辛いものばっかり食べて妊娠中に味覚が変わってしまい、白ごはんの味の違いがわからなくなってしまったなんてことにならないよう辛いものは控えねば…という思いと、赤子のために食べられるものを食べて栄養を蓄えなければ…という思い。「仕事」と「出産・育児」、いろいろな私の葛藤を象徴しているように思う。