柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

あんパンの

私が購読している新聞には、俳人の坪内稔典さんがさまざまな人たちの俳句を1日1句紹介する「季語刻々」というコーナーがある。

 

先日、こんな句が載った。

「餡パンの 中の隙間や さくらさくら」

 隙間のあるパンが好きだという坪内さんは、この句に共感したそうで、「そういうあんパンは、どちらかというと安いパンなのだが、指でパンを押し、あんをその隙間に伸ばすのが私のひそかな快楽である」と書いていた。これを読んで共感する人も多そうだ。

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1874年に生まれたあんパンは「日本食」と言う人もいる

 そして、「サクラの候はあんパンがことにうまい」とも書いている。

 

なぜ春にあんパンなんだろう。店では「桜あんパン」なるものも見かけるけど、桜が咲く時期にあんパンがうまい理由がどうもわからない。新小豆の季節でもない。

 

調べてみると、1875年にあんパンにゴマやケシの実ではなく桜の塩漬けを乗せたものが考案され、花見のときに明治天皇に献上され、宮内庁御用達になったらしい。「桜あんパン」誕生のきっかけはわかったけど、それが「桜の季節といえばあんパン」につながるのだろうか。桜を見ながらあんパンを食べていると、桜の塩漬けとリンクするということだろうか。桜の季節にあんパンがおいしい理由が知りたい。

 

俳句も食文化の変化とともに移ろう。「カレーパン」とか「ラーメン」が登場してもおかしくない時代なのだなあと思うと同時に、歳時記を見ると、「生節」とか「あけび」とか「はったい粉」とか「葛湯」とか「卵酒」とか「粟飯」とか、目にする機会が少なくなっている食べものがたくさんあることにも気づき、なんだかちょっぴりさみしい気分になった。

 

というふうに、ずいぶんと抑えめに書いたけど、自宅ではもっと過激な発言を連発し、夫からは「思想が強すぎる」と言われた。新聞社に入社した直後、長老の校閲担当者から「自分の本棚を人に見せるな。思想がばれるぞ」と言われたことをなぜか思い出した。