柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

こんな時こそお米を見直す

お米を買う人の49%はスーパーマーケットで買っている。次に多いのは縁故米で16%、その次がネットショップで9%。農家直売と生協が7%で、ドラッグストアが5%。お米屋で買う人は3%しかいない。

(平成30年2月時点・農水省「米をめぐる関係資料」)

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あるお米屋は「みんな米屋で米を買わないのに、新米の季節になるとメディアは米について取材に来る」と言っていた。お米屋はお米のプロだと思っているからメディアは取材に来るのだろう。視聴者や読者も、お米屋はお米のプロだと思うから、その情報を見よう読もう聴こうとする。


でも、お米屋でお米を買わない。


お米はどこで買っても同じと思うからか、安ければなんでもいいと思うからか、お米について今さら質問することもないと思うからか、近くにお米屋がないからか。


この統計を見るとお米屋の経営が心配になるが、お米屋は個人客向けだけでなく、飲食店向け、病院や保育園向けなど、さまざまな販売先を持っている(お米屋によるけど)。


しかし、今回の新型コロナウイルスによって影響が出ている。


数軒のお米屋に状況を教えていただいたが、飲食店向けの割合が多いお米屋はなかなか厳しいようだ。


飲食店が休業したり営業時間を短縮したり客足が遠のいたりすれば、お米の注文も減る。注文が減り暇になっても従業員のクビを切るわけにはいかない。しかし、お米の仕入先への支払いもある。自宅兼お米屋の店が多いように感じるが、自宅と別な場合は家賃などの固定費もかかる。当然ながらお米屋の店主自身や家族の生活もある。


家庭向けは買いだめまでいかずとも普段よりも多めに買っていく客が多く、そちらの売上は伸びたそうだ。とは言え「一時的なもの」「飲食店に比べたら家庭の購入量は少ない」と話すお米屋もいた。


たしかにそうだけど、もしも外出自粛によって自炊が増えて、たとえば1ヶ月に5キロしか食べなかった家庭が10キロ食べるようになり、そんな家庭が100軒増えたらけっこうな量になる。


1人当たりの年間消費量は53.8キロ(2018年度)。1ヶ月4.5キロ弱だ。しかしこれはあくまで平均値。先日、ある芸人が4人家族でお米を8キロ「買い占めた」という週刊誌報道があったが、この記事を書いた記者はよほどお米を食べないのだと思う。平均値で見ても4人家族ならば1ヶ月18キロは食べる計算になる。たった8キロで買い占めしているように映るとはそれだけ米離れしているということなんだなあと悲しくなった。


この芸人は買い占めではないと思うが、今回のコロナウイルスの余波で買い占め騒動はやはり起きた。都内では売り場の棚からお米が消えたスーパーもあったと聞く。やはり危機的状況に陥った時にはお米に立ち戻る。


新米の季節や危機的状況の際にはお米を求める日本人。しかし、お米の消費量がさらに減り、お米屋が減り、お米農家が減り、田んぼが減ってしまったら、もう新米の季節にも危機的状況の際にもお米を手に入れることが難しくなってしまうかもしれない。


365日パンだけ、365日麺だけで生きられる、米は一粒たりとも要らない!という人がいるのかどうかわからないけど、お米が食べられない生活はツライ!という人にはどうか日頃からお米をもっと大切にしてほしい。

 

ちなみに今回の買い占め騒動では一見客には品種や量を限定して販売する米屋もいた。日本にはお米の在庫は十分にあるとは言え、得意客たちが普段買っているお米を確保しておくためだ。日頃からかかりつけ医ならぬ「かかりつけ米屋」があるといいかもしれない。

 

こんな時こそ、普段はあって当たり前のものを見直す機会にしたい。