柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

皺々で色あせたグリンピースのごはん

初めてグリンピースごはんを食べたのは小学生の頃。家庭科の授業の調理実習だった。

 

その少し前に読んだ漫画の中で「グリンピースごはんが嫌い」な登場人物がいたので、きっとグリンピースごはんはピーマンみたいにおいしくないんだろうと思っていた。ピーマンと同じ緑色というだけで警戒していた。

 

ところが、食べてみるととてもおいしい。薄緑色で皺々としたグリンピースが入ったごはんは、グリンピースの風味と塩気が感じられ、おかずがなくてもグリンピースごはんだけでぱくぱく食べられた。

 

大人になると、グリンピースごはんの作り方は大きく分けて二つの選択肢があることを知った。一つは、調理実習の時と同じようにお米とグリンピースを一緒に炊く方法。もう一つは、グリンピースを塩茹でしておいて、炊き上がったごはんに混ぜ込む方法。

前者はグリンピースの風味が感じられるが、グリンピースは皺々になり鮮やかな緑色は色あせてしまう。

後者はグリンピースの風味が薄くなるが、グリンピースの見た目はツヤツヤぷりぷりとして鮮やかな発色になる。

 

先日、地元のグリンピースを購入してグリンピースごはんを作ってみた。悩みに悩み、2つの調理法の折衷案に落ち着いた。具体的に言うと、塩茹でしたグリンピースの茹で汁を冷ましてお米の炊飯水の一部に使い、ごはんが炊き上がってからグリンピースを混ぜ込んだ。

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それでもやはりグリンピースの風味が弱かった。でも、それだけではない。一番の残念な点は、グリンピースがツヤツヤぷりぷりで色鮮やかなことだった。

 

私にとってのおいしそうなグリンピースごはんは、ツヤツヤぷりぷりで鮮やかなグリンピースではなかった。心が踊らなかった。私は皺々で色あせたグリンピースのごはんにおいしそうだと感じていたのだと気付いた。

 

皺々で色あせたグリンピースのごはんを食べると、小学生の頃の調理実習で作ったグリンピースごはんを思い出す。

三角巾とエプロンをつけて、微妙な匂いの家庭科室で、班のみんなで不慣れな手つきで文化鍋で炊いたグリンピースごはん。

なぜあんなにおいしく感じたのだろう。ガスを使って文化鍋で炊いたからなのか、炊きむらがひどすぎた給食のごはんが学校飯のデフォルトだったからなのか。それもあるけど、自分たちで米を測り、米を研ぎ、水を測り、火加減を見ながら炊いたことによって、おいしさ度数がぐんと上がったのだと思う。

 

子どもたちにお米のおいしさを知ってもらうためにはお米を食べる機会を増やすことだけでなく、自分で米を測り、米を研ぎ、水を測り、火で炊くという経験がとても重要だと感じる。

 

以前に静岡県の安東米店というおもしろい米屋さんが「炊飯器の中はブラックボックス」と言っていた。つまり、炊飯器の中で何が起こっているかわからない。スイッチオンでピーピー鳴ったら炊けている。

 

炊飯器は便利で炊き上がりが安定するけど、自分で米を炊いた実感を得られづらい。多少焦げても、水加減を間違えても、火を使ってアナログに炊き続けていくと、おいしく炊けた時の感動はスイッチオンの数倍になる。