柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

白飯屋

以前に都内の商店街にあったおむすび屋で開かれたイベントでおむすびを作った際、高齢の女性客が「おむすびじゃなくて白いごはんを買いたい」と注文してきた。昼食のおかずは家にあるが、帰宅後に「夫と2人分のごはんを少量だけ炊くのが面倒」なのだという。そこで、おむすび数個分の量のごはんをパックに詰めて販売した。

パックごはんならば電子レンジで2分ほどで食べられるが、どうしてもにおいが気になるという人もいるだろう。「最近のパックごはんは進化してにおいが気にならない」という意見もあるが、個人的にはこれまで食べ比べてみた中ではにおいが気になるものが多く、食味的にもこれならアリだと思えるパックごはんの白飯には出会えていない(赤飯ならばあった)。

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そのおむすび屋のごはんは、通常は新潟県産の従来コシヒカリ。現在の新潟県産のコシヒカリはほとんど「コシヒカリBL」といって、いもち病抵抗性(Blast Resistance Linesブラストレジスタンスラインズ)があるコシヒカリだが、そのおむすび屋では新潟でもともと作られていたコシヒカリを使っていた。

コシヒカリBLよりも従来コシヒカリのほうがおいしい」と以前にテレビで放送していたが、まったくそんなことはない。コシヒカリBLだっておいしいお米はおいしいし、従来コシヒカリだっていまひとつな食味のお米もある。

しかしながら、そのおむすび屋の従来コシヒカリはおいしかった。もしかしたら白飯を買いに来た女性は「炊くのが面倒だから」という消極的な理由だけでなく、「このお店のごはんがおいしいから」という理由で白飯を買いに来てくれたのかも…と思いたい(実際はイベントで使っていたお米は「能登ひかり」だったが、そのお米もおいしかった)。

そんなことを考えていたら、さまざまな産地や品種や生産者の白飯を好きなグラムだけ購入できる“白飯屋”があったらもしかしたら需要がある時代なのかもしれない…と思い始めた。ご高齢の方や障がいを持った方など、炊飯が困難な方もいる。炊飯せずともおいしいごはんが買えるお店があってもいいのかもしれない。

お米だけでなくおむすびも売っている米屋が何軒もあるが、米屋が厳選したお米を丁寧に炊飯した白飯を販売しても、もしかしたら需要がある時代なのかもしれない。

昔は買うものではなく作るものだったおむすびがコンビニおむすびをきっかけに中食で普及したように、白飯も買う時代になるのだろうか。

白飯を買う習慣が広がってごはんを食べる人が増えたら嬉しいが、それでもやはり炊飯文化の衰退は寂しい。やはり私が熱望するのは、お米の消費アップだけでなく、米食文化の再興。炊飯文化も大切にしたい。ごはんが炊けて蒸らしが終わり、蓋を開けた時にたちのぼる湯気と熱気とごはんの香り、ツヤツヤピカピカとみずみずしく光り輝くごはんとの対面。そんな幸せな瞬間を味わえなくなってしまうのはあまりにももったいないと思うのだが。