しっかりと登熟した「完全米」あるいは「整粒(せいりゅう)」と呼ばれるお米は透明感があるが、でんぷんの蓄積が不十分で部分的に白濁してしまうお米がある。
白く濁って見えるのは、でんぷん粒の密度が粗いためにでんぷんの粒と粒の隙間に空気が残り、光が乱反射するから。こうしたお米を「粉状質粒(ふんじょうしつりゅう)」とか「白未熟粒(しろみじゅくりゅう)」と呼ぶ。
でんぷんの蓄積が不十分になる原因は、高温や低温、日照不足、渇水のほか、根がダメージを受けたり養分が不足したりして登熟不足になる「秋落ち」などだが、白濁になる箇所によって原因はさまざまだ。
粉状質粒や白未熟粒の中でも、米粒の半分以上が白濁したものは「乳白米」や「シラタ」と呼ばれている。お米の腹側が白濁したお米は「腹白米」、背側が白濁したお米は「背白米」、基部が白濁したお米は「基白米」、中心部が白濁したお米は「心白粒(しんぱくりゅう)」と呼ばれている。
他にも、不透明で光沢のない「死米」、カメムシに食われて斑点がついた「斑点米」など、さまざまなかたちでイネが育った環境の影響がお米の見た目にあらわれる。
東京・清澄白河「お米のふなくぼ」の店主・舩久保正明さんはこうしたイネの状態について、こんなふうに言っていた。
「養分不足や水不足も限界を超えれば枯れてしまう。だから、イネは危機を感じたときに、子ども(籾の中)に養分を与えるよりも、でんぷんを自己消費してなんとか生き残ろうとしている。粉状質粒などのように、次世代に引き継げる状態で育つこと自体が自然界では奇跡なのかもしれない。それを人間がサポートすることでイネは命を増やしているのだと思います」
この言葉を聞くまで、私は粉状質粒などのお米にネガティブな印象しか持っていなかったが、イネが生き延びるための選択なのだと見方が変わり、イネの生命力に感激した。
他にも、高温の年にイネはぬか層を厚くすることで実やタネ(お米)を守ろうとしたり、「芒(のぎ)」という籾先から伸びる毛を突然出し始めることで、少しでも体内の水分を蒸散させる面積を増やして穂の温度を下げようとしたりと、自分自身が生きるために健気に頑張っている。なんとも涙ぐましいイネの生命力!
こうしたお米にまつわるアレコレを書いた拙著が5月19日に発売予定(お米の粉状質粒などについては書いていません)。普段何気なく食べてきたお米の見方・考え方が変わるきっかけになれば嬉しいです。
「知れば知るほどおもしろい お米のはなし」(三笠書房 知的生き方文庫)