夫と義兄の田植えが始まるのは毎年5月下旬。田んぼの区画数が多いため、代かきと田植えを並行して行っている。田植えは義兄、代かきは夫が担当だ。
近所の人や地域の農家がアルバイトに来てくれるので、種まきのときと同じようにおしゃべりしながらにぎやかに田植えをしている。家族や地域の人たちが「田んぼに苗を植える」という一つの目的に向かって一致団結する様子はなんだか新鮮。
同じように田植えしている地域の農家に会うと「どうですか」「大変ですね」と声を掛け合い、スーパーへ買い物に行くと客同士が「田植え終わった?」「うちは今日やっと終わった」などと話している声が聞こえてくる。この時期は地域全体が田植えを中心に回っているようにすら感じられ、長いお祭りが開かれているような、そわそわと落ち着かない気持ちになる。
田植えは、苗を植え付ける場所が深すぎると、根に必要な酸素が不足してしまい、イネの生育に良くない。そして、1株の苗の本数をごっそりと植え付けてしまうとイネが茂りすぎて、これも生育に良くない。1株につき3〜4本の苗を浅めに植え付けていくのがベストだ。
上記のように、「『苗』を植え付ける場所が深いと『イネ』の生育によくない」というふうに、「苗」と書いたり「イネ」と書いたりしているが、いったい「苗」はいつ「イネ」に変わるのだろうか。
田んぼに植えるまでは「苗」で、田植えをすると「イネ」という意見もあるが、植えたばかりの頼りなさそうな姿を見ると、田んぼになじんでいないように見えて、まだ「苗」のように思えてしまう。
田植え後に根から新しい根が出て土に根付くことを「活着(かっちゃく)」と言うが、個人的には活着したことでようやく地に足を付けて生きているように感じるため、活着したころから「イネ」と呼べるのではないか…と思っている。
実際のところはどうなんだろう。
こうしたお米にまつわるアレコレを書いた拙著が5月19日に発売予定(「苗からイネに瞬間はどこ?」については書いていません)。普段何気なく食べてきたお米の見方・考え方が変わるきっかけになれば嬉しいです。
「知れば知るほどおもしろい お米のはなし」(三笠書房 知的生き方文庫)