柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

「お米は安いもの」という思い込み

「お米の適正価格」という言葉を聞くが、この言葉にはどうも2つの意味があるようだ。

一つは、農家の再生産可能価格。持続可能な経営のためにはいったいいくらなのかということ。

もう一つは、消費者が購入しやすい価格ということ。たしかに、日常食なのだから高すぎては困ってしまう。

そういうわけで、「農家の適正価格」と「消費者の適正価格」はなかなか相容れない。

米屋や農家に聞いていると、適正価格は「慣行栽培米で5キロ3000円台前半か3000円台半ば」という声を聞く。あくまで慣行栽培米の価格であり、特別栽培や有機栽培などはこの限りではない。

一方で、消費者の適正価格はまちまちだ。情報番組の街頭インタビューでは「5キロ2000円」と話す人もいれば、「5キロ3000円台」と話す人もいる。

ある調査では、「妥当だと思うお米の価格」として、8割以上が「3000円未満」と答え、このうち「1500〜2000円」と答えた割合が2割以上だった。

たしかに、格差が広がり、物価が高くなっている中、本当に窮乏しているご家庭はある。でも、その負担を代わりに米農家が負うのはおかしな話で、国が然るべき支援をすべきだと考える。

お米の価格は平成後半から令和5年産まではずっと安い時代が続いていた。特に、2014(平成26)年なんて買取価格で1万円を切る地域もあった。つまり、消費者は「お米は安いもの」と思い込んでいる節もあるのではないだろうか。

先日、ある女性からこんな話を聞いた。

その女性は長野県ご出身で、お父さまが自家消費分だけのお米を毎年作っていたそうだ。そのため、女性は赤ちゃんのころからお父さまのお米を食べて育ってきた。東京で働いてからもお米はいつも送ってもらうことができたので、買う必要はなかった。だからお米に対する価格感がなかったという。

ところが、最近になってお父さまがご病気になられ、お米を作ることができなくなった。そこで、生まれて初めてお米を買うことになったタイミングは、「米価高騰」が騒がれている真っ只中。でも、女性は「これって高いの?と思いました」と世間との意識のギャップに驚いたという。

「外食すればもっと高いじゃないですか。でも、お米は高い高いと言われていても、お茶碗一杯に換算すれば安いと思うんですよね」

メディアでは「お米が高い」のオンパレードだが、これまでお米が安い時代が続いてきたからこそ、お米を不当に高く感じすぎている面もあるのかもしれない。

もちろん家庭の経済状況はそれぞれなので、どう感じるかもそれぞれなのだが、「お米は作る人がいるからこそ食べることができる」という当たり前のことに思いをはせて、いま一度「適正価格」を考え直してみるのも悪くないのでは。