柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

古いお米のための新しい炊飯器需要

今朝の毎日新聞(2025年6月21日朝刊)に、「古米(政府備蓄米)をうまく炊くために炊飯器への関心が高まっている」という内容の記事がのっていた。家電量販店は買い替え需要をつかもうと売り場を充実させているそうだ。

いやいや、人々は家計が大変だからこそ並んでまで備蓄米を買っているというのに、高い炊飯器を買い替えるわけないだろう。

ところが、ビックカメラ有楽店では「古米も新米もつややかに炊けるとうたう平均価格帯より高い炊飯器が売れ筋」なのだそう。従業員が古米に適すると考える炊飯器の専用売り場も設け、圧力タイプを中心に2万〜5万円台の炊飯器のほか、精米機や米びつなどを並べているという。さすがに10万円もする炊飯器が並んでいない点は納得だが、目の前の生活が逼迫しているというよりは「コスパ」で選んでいる層もいるということだろう。

記事には、家電売り場の主任の話として「コメ騒動がいつまで続くか分からず、炊飯器の買い替えを前倒しして検討する人が増えている」と書かれていたが、古米を食べる機会はそのうちなくなる。というか、そもそも古米がなくなる。なぜならば、随時契約でほとんど放出されているからだ。

まだ市場に出回っていないお米もあるが、農水省の計画通りに放出が進めば残りは令和2年産の15万トンのみ。それも、来年には備蓄期限が過ぎて飼料米などに流用される。そういうわけで、古米のためにわざわざ炊飯器を買い替えても、古米(備蓄米)を購入できる期間は限定的だろう。

今年は備蓄米の買い取り入札がなく、農水大臣はミニマム・アクセス(MA)米で備蓄米を埋めることも示唆している。MA米は、アメリカ、オーストラリア、中国、タイなどからの輸入米。備蓄米というかたちで外堀から輸入米がじわじわと埋めてくることになる。まさに茹でガエル。

一方で、今年は農家からの買い取り入札がないぶん、これまで備蓄用だったお米が主食用に流れる。つまり、よほどのことがない限り、令和7年産は増産するだろう。さらに、輸入米は増えているし、主食用のMA米も前倒しで入ってくる。

お米が足りなかったのだから、備蓄米による補填は必要だった。だが、随時契約による大量放出は「補填」ではなく「市場介入」だ。米価が安いときは気にも留めず、米価が高いときだけ市場介入されては、米農家はたまったものではない。