先日、「どっこんすい」という言葉を初めて聞いた。
福島県の猪苗代湖北岸では、かつて「どっこんすい」という言葉が使われていたらしい。
調べてみると、各地で使われている「どっこんすい」とは「湧き水」のこと。
だが、この界隈で言う「どっこんすい」は「湧き水」といっても、温室効果ガスとして知られる「メタン」を主成分とする天然ガスを含んだ水を指すようだ。
戦前はまだ家庭の台所にプロパンガスが普及されていなかったので、近所の人たちは山で柴刈りをしていた。湖畔では掘抜き井戸から出る「どっこんすい」から放出されるメタンに火をつけて、煮炊きに使っていたそうだ。
というわけで、夫が湖畔に住む40代の友人Sさんに「どっこんすい」について聞いてくれた。さすがにSさんは知らなかったようだが、Sさんの74歳の父親が知っていた。
飲み水のために掘った井戸から「どっこんすい」が湧いてきたので、井戸にふたをして「どっこんすい」から出るガスを貯めて、井戸の上にパイプのようなものを通してコタツで暖をとるために使っていた。Sさんパパはコタツに入っていた記憶があるそうだ。ちなみに、井戸の水は変なにおいがするわけでもなく飲めたらしい。
この井戸があった場所には、現在は国道49号線が通っている。
「どっこんすい」は、夫が田んぼの割れ目から変なにおいがしたことをきっかけに調べて判明した。間断灌水管理や中干し延長をすることで田んぼから放出される温室効果ガスのメタンを抑えることができるそうだが、猪苗代湖に繁茂した湿性植物の遺体が堆積してできたスクボ(泥炭土の方言)は例外のようだ。
スクボは加湿によって分解を免れて厚く体積して生まれた土壌で、この下層には有機物が微生物に分解されて生まれたメタンが眠っている。
だが、中干ししすぎて田んぼに割れ目ができると、メタンが上がってきてしまうと推測される。
地域ごと、田んぼごと、気候ごとに稲作の正解は違うからこそ、稲作は知識、経験則、観察眼、さらに地域の歴史や地形や土壌などを知ることが求められるんだな。