柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

ごみばことめがね・その1 完

巨大胚芽米カミアカリの可能性を生み出す目的で開かれている勉強会「カミアカリドリーム」のスピンアウト勉強会として「ごみばことめがね」を企画した。

「思い込みをごみばこに捨てよう、本質を見るめがねをかけよう」という意味で名付けた「ごみばことめがね」。

記念すべき第1回目は、元・古川農業試験場長の永野邦明さんを講師にお招きして、福島県会津若松市「ヒューマンハブ天寧寺倉庫」で開催した。

テーマは「カドミウム低吸収性のお米のはなしを聞く」。

福島県・宮城県・新潟県・岩手県・東京都・静岡県の1都5県から計26名にご参加いただいた。

タネ育種の最前線でご活躍されていた方の科学的知見や科学的根拠に基づいたお話を伺える機会だったので、その逆の主張と思われるYouTubeや、明らかに虚偽とわかる内容のYouTubeも、あえていくつか見てから勉強会に挑んだ。世の中にどんな意見があるのかをより具体的に知るために(見たせいで誤情報を含めたいろいろな情報が頭の中でごちゃごちゃになってしまったので良し悪しだと感じたけども)。

永野さんからは、日本のカドミウム汚染の現状、重イオンビーム・ゲノム編集・ガンマ線照射の仕組みの違い、これまでのカドミウム低減対策、乾田と湛水によるカドミウムとヒ素とメタンの関係性、コーデックス・海外・日本の基準値、マンガンも低吸収になることなどなど、さまざまな方面からカドミウム低吸収米品種に関わる事実やメリット・デメリットを教えていただいた。

事実を知らないままの議論や根拠なき情報に基づいた議論は不毛すぎるというかそもそも議論にならないと感じていたので、今回の勉強会はネット情報ではなく育種現場からの一次情報を知ることができる本当に貴重な機会だった。

「ごみばことめがね」の目的の一つは「フラットに議論すること」、つまり「お互いが同じ立場で、相手の意見を尊重しながら、思ったことを率直に言い合うこと」だったので、「知る」ことでようやく「ごみばことめがね」の本題である議論に突入。こんな意見やこんな意見が出たという内容は一端だけ切り取ると一人歩きしたり誤解が生じたりするかもしれないのであえて書かないが、知識や情報や懸念や考えをシェアし合うことで、参加された方たちにとって少しでも違う景色が見えることに繋がっていたら嬉しい。
ここに個人的な意見や感想も書きたいけど、やはりセンシティブな話題だけにネット上に書くことに対して少しびびってしまう。こんな状況だからこそ、リアルな場で開催した今回の「ごみばことめがね」には意味があったと感じている。そして、時間とお金をかけて集まってくださった参加者の皆さまに心より敬意を表します。

最後に永野さんから聞いた、穂発芽にカビ毒があることが分かったという話は、語弊があるかもしれないけどおもしろいと思った。
なぜならば、一般的に「人工=悪」「自然=善」のようなイメージが持たれがちで、実際に人工的な処理で害があるものもあると思うが、実は「自然=善」には根拠がなかったりする。今まで穂発芽は褒められたものではなくとも、特に健康に悪いものではないという認識で、「穂発芽は甘い」という話も何人かの米屋さんや生産者さんから聞いていた。それはそれでおもしろいなあと思っていたが、まさかのカビ毒。「人工=悪」「自然=善」の図式が崩れた直後に永野さんがおっしゃった「安全性は多面的に見て検討する必要がある」という言葉は、よりズシリと心に響いた。

夜の懇親会は会津若松市、東山温泉の「いろりの宿 芦名」。囲炉裏を囲んで日本酒を飲みながら勉強会の話題をしていたとき、同じ情報を共有しても当たり前だが意見や考えはみんな同じでない中で、相手の意見を尊重しながら議論ができるというこの状況が尊いなと感じた。議論というかお互いの学び合いというか。一緒に議論しながら、一緒に学んでいく感覚は、学生時代に大好きだったゼミ(モグリで混じっていた他学科のゼミ)を思い起こさせた。もちろん同じ学生である立場とは違い、職業も世代もバラバラで知識や経験は参加者によって違うけれども、自分と違う意見を知ることや、同じ意見であっても他者の率直な意見を聞けることは、やはり何かしらの糧になると感じる。

そんなこんなで楽しく尊い2日間でした。

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