柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

粒食は粒感が重要

「つくばみらい市米コンテスト」の審査員として茨城県つくばみらい市へ。来年の米食味分析鑑定コンクール国際大会の会場がつくばみらい市のため、今回は国際大会のプレ大会。

ノミネート米は、県内の生産者による計24点。内訳は、「コシヒカリ」11点、「ゆうだい21」5点、「縁結び」4点、「歓喜の風」2点、「てんこもり」1点、「ミルキークイーン」1点。
(出品米は茨城県のほか、つくばみらい市と友好都市の千葉県香取市、埼玉県伊奈町、台湾桃園市からの計281点)

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1点突出してめちゃくちゃ味が良く、みずみずしさと滑らかさに優れたゆうだい21があったけど、個人的にはお米は粒食だからこそ粒の形状を保っている点は重要だと思っていることもあって、粒感や弾力などの食感を重視した結果、選んだ3点のお米はたまたますべて大子町のコシヒカリだった。

終了後、各審査員がどういう組み合わせのお米を選んだのかを見ると、かなりばらつきがあり、それぞれ選んだ決め手を明かし合うと互いに学びになりそうだけど、聞いていいのかどうか迷い、結局聞けずじまい。

金賞は大子産米販売促進協議会の菊池幸一さんの「ゆうだい21」。おめでとうございます。

ちなみに、ノミネート米のタンパク質含有量はほぼ6%前半で、2点だけ5.8%と5.9%があったけど、票は集まらなかった。低タンパク=高食味は神話になり始めているような。

食味値よりも整粒値?

「玉川産米食味コンクール」の審査員として福島県・玉川村へ。玉川村は福島空港がある自治体でサルナシが特産のひとつ。紅葉が美しかった。

5名のノミネート米は昨年同様すべて「コシヒカリ」。

開始前に職員の方から「例年に比べて食味値が数点高めの傾向」と聞いていたが、だからと言って必ずしも食味が良いわけではないだろうと思っていた。

ところが、昨年よりも良かった。審査員全員が同じご意見。今年度産米のコンクールの審査はまだ福島県内3ヶ所だけど、今年は福島県内のコンクールに限っては今のところコシヒカリが良い傾向(岐阜県のコンクールの審査をされた方によると、岐阜県もコシヒカリが良かったとのこと)。

今回の金賞は車田覚藏さんの「コシヒカリ」(食味値85.0、整粒値86.1)。おめでとうございます。

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ちなみに5点のノミネート米の中で食味値は4〜5位で、整粒値はトップ。昨年、食味値よりも整粒値のほうがベロメータに近いように感じていたので、また一つ体感事例が増えた。特に近年のような高温登熟下では、食味値よりも整粒値のほうが参考になる場合が多いように感じる。

(とはいえ、必ずしも整粒値が高ければおいしいとも限らないのが難しいところ)

先日参加したお米の食味に関する学会では、複数人の研究者に聞いた限りでは、誰もが食味計の数値と実際の食味に乖離があると考えていた。

各地のコンクールでは数値によって多くのおいしいお米が予選落ちしている面もあるのかもしれない。

ソウルフードとは

先日、某県の「県民のソウルフード」と聞いていた商品を食べたのだけど、率直に言うと期待外れだった。

夫に言うと、「その県民だけがおいしいと思うからソウルフードなんだろう」とのこと。

そもそも「ソウルフード」とは「米国南部の黒人の伝統的な料理」を指していたが、2000年以降の日本ではソウル(魂、精神)との意味から派生して、各地特有の郷土料理などを指すことがほとんどとなっているらしい。(朝日新聞「知恵蔵」)

「名物にうまいものなし」という言葉があるせいか、「名物」と聞いても期待値を上げることはないのに、「ソウルフード」という曖昧な言葉を聞くとなぜか期待値を上げてしまいがち。

どの地域でも同じものを食べるようになったらそれはすでに「ソウルフード」ではないようにも思うので、やはり「その県民だけがおいしいと思うからソウルフード」という夫の言葉はあながち間違いではないのかもしれず、「ソウルフードにうまいものなし」と思っておいたほうがいいのかもしれない。原材料が限られた地域でしか入手しにくいなどの事情がない限り、おいしければ地域固有のものではなくなるようにも思われるので…

「日本のソウルフード」とも言われたおむすびは、今や海外で大人気。海外の日常食として普及するほどに、おむすびは日本のソウルフードではなくなるのかもしれない。

カミアカリの味わいを言葉で表現する

今年も静岡県藤枝市で開かれた「 カミアカリドリーム勉強会 」に夫と娘と一緒に参加。

巨大胚芽米「カミアカリ」の生みの親、 松下 明弘さんを含めた全国7生産者のカミアカリ、秘密のカミアカリ、静岡県農林技術研究所の巨大胚芽黒米の計9種類を試食。「カミアカリの味わいを言語化する」というテーマで、参加者がそれぞれの味わいを言葉で表現した。

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参加者は約40人。ホワイトボードに書ききれないほど多様な言葉たちがたくさん出てきた。それでもボードに書き出したのはほんの一部。

私が書いたのは「鶏ガラの香り」「人の肌の香り」「薄い甘酒の甘さ」「香ばしい草の香り」「甘い草団子」「べっこう飴の甘さ」「バンドエイド風味の甘さ」「ドクダミの香り」「きなこの香り」など。

他の人の意見では「キャベツの芯の甘さ」とか「里芋の風味」とか「えびせんのような風味」あたりに「わかる〜!」と共感。この言葉たちを見ながら再び試食したら感度がいろいろな方向に増幅できたかも。

言葉は感度を上げてくれると改めて実感でき、やはり玄米は白米に比べて多様な言葉が出てくると改めて実感した。

それから、お米の味わいをつかむためには、いろいろな食体験のみならず、いろいろな体験が必要なのだと改めて実感した。小さなお子さまと一緒に参加された女性が巨大胚芽黒米に「さつまいもの皮(の風味や食感)」を感じたとおっしゃり、お話を伺うと「お子さまに蒸したさつまいもをあげるときに取ってあげた皮をいつも私が食べている」とのことで、その時の風味や食感を彷彿とさせたそうで、これが個人的にはめちゃくちゃおもしろかった。

私が出した「人の肌の香り」もいつも娘を抱っこしているから。日本酒に感じられる「梨の香り」や「青りんごの香り」なども、ほぼ果物を食べていなかった以前だったら捉えにくい香りだったと思うけど、果物好きの娘のおかげで果物を食べる機会が増えたので、以前よりは捉えられるようになっているような。

味や風味などの記憶力が良い人ならば、昔の体験がいとも簡単に引き出せるのだろうけど。

また、たとえばある風味をネガティブに捉えてネガティブに表現していた人が、同じ風味をポジティブに捉えた人のポジティブ表現に出会った時、その風味の捉え方が少しポジティブになったらおもしろいなと感じた。たとえば、納豆に初めて出会った人が、「腐敗」と聞くと、ネガティブに感じられ、「発酵」と聞くと、ポジティブに感じられる…みたいな。できれば故•淀川長治がどんな映画も愛して褒めていたように、どんなお米も愛して褒めたいと思っているのにネガティブに感じた点はネガティブに表現してしまう私にとって、この仮説はとても興味深い。

この言葉出しの後に、今回の講師である「創作珈琲工房くれあーる」代表で「カップオブエクセレンス」国際審査員の内田一也さんがコーヒーの審査を例にお話くださり、この玄米を言葉で表現するという試みにかかっていた濃い霧がほんの少し薄くなったように感じた。

玄米を言葉で表現する際の分類について内田さんや参加者の方たちからたくさんのヒントをいただいたので、掘り下げることで、より次回以降の言葉出しがしやすくなるかもしれない。言葉出しをやりやすいということは、感覚が鋭くなるということだと思うので、言葉出しのやりやすさは重要だと感じる。

個人的には、この玄米の味わいを言葉で表現するという絶対評価と相反する相対評価の世界であるお米のコンクールの審査についてもヒントをいただいた。

これまで審査員によって重視ポイントが違う点がおもしろいと思う反面、もやもやとした思いも抱いていて、今回内田さんが「客観的評価」というワードを何回もおっしゃっていたので、自分なりに主観ポイントと客観ポイントを洗い出してみた。

記者時代に「客観報道」というワードを使う先輩に、ネタを選んだ時点で主観じゃないのか?客観的データであってもどのデータを使うか選ぶ時点で主観じゃないのか?などと青くさい反発をしていて、世の中に客観的なことなんて極めて少ないと思っていたけど、お米に話を戻すと、この食味ポイントは相対評価に限っては客観的になり得る唯一のポイントではと思える気づきがあった。今回のテーマとはズレているかもしれないけど、絶対評価を考えることは相対評価を考えることにつながり、相対評価を考えることは絶対評価を考えることにも繋がるんだなという学びもいただいた。

カミアカリドリーム勉強会•総合プロデューサーの安東米店の 長坂 潔曉さん、今回もありがとうございました。いつも準備や片付けをしてくださるカミアカリメンバーの皆さま、ありがとうございました。

今回も山に入って自然薯を掘ってきて、2時間かけて引いた出汁で、滋味深いとろろや香りからすでにおいしい味噌汁を振る舞ってくださった松下さん、ありがとうございました。

ごちそうさまでした!

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お米を食べて日々努力

文化の日、福島県・天栄村「天栄米食味コンクール」の審査員を務めさせていただいた。

昨年はノミネート米15点のうち、10点が「ゆうだい21」、5点が「コシヒカリ」だったが、今年は総合部門ノミネート米10点のうち8点が「ゆうだい21」、残り2点は「コシヒカリ」と「福、笑い」。今年の金賞受賞米5点はすべて「ゆうだい21」。今年もゆうだい強い。

ちなみに今年のノミネート生産者12人のうち7人は昨年もノミネートされていた生産者だった。

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品種部門は「福、笑い」と「天のつぶ」の一騎打ち。食味特性がまったく違う品種で、得票数は同票。審査員ごとに重視する点が違うのが興味深い。当たり前ながら審査員は人間なので、良食米の定義はあっても人間が審査すれば嗜好はつきものなんだなと改めて感じる。

お米を日常的に味わうのは日本全国の老若男女なので、いろいろな嗜好の人たちがおいしいと思うお米が日本の食卓におけるおいしいお米なんだろうな。

それでも、審査員の嗜好という運で決まってしまうのは生産者に申し訳ない。

やはり、嗜好の違いはあるにせよ、品質を見抜く力を審査員は日々磨かなければならないのだと心に留めて、日々努力。

令和6年産おいしかった米・2024年8月21日から10 月31日までに食べたお米

令和6年産米を2024年8月21日から10月31日までの約2ヶ月間で計33種類食べてきた中で、特に「めちゃくちゃおいしい」と感じたお米を5つ紹介する。順番は順位ではなく、食べた順番。

◼️佐藤孝文さん・佐藤真由美さん(すよし農事)新潟県長岡市

「農林1号」

外観はしっとりつややかで粒感がある。

口に入れると、みずみずしく粒感があり、しっかりとした粘りを感じる。

温かいときは弾力が薄めだが、冷めるともちもち。

咀嚼時の舌触りがなめらか。

早生ゆえか味がまだのりきっていない印象だけど、数ヶ月経ったらさらにおいしくなりそう。

◼️佐藤孝文さん・佐藤真由美さん(すよし農事)新潟県長岡市

「にこまる」

しっとりつややかで照りが良く粒感がある。

口に入れると、「にこまる」らしい粒感。

粘りは薄めで、しなやかな弾力があり、軽やかながらもしっかりとした食べごたえがある。

米肌はつるりんとなめらかで、咀嚼してもなめらか。

例年通り、旨味の強さには安定感がある。

おむすびに最適の食感。

収穫したてのためか、1合につき5gほど水分を減らすとベストだった。

◼️武山昌彦さん(武山農園)北海道・剣淵町

「ななつぼし」

外観は粒立ちが良い。

口に入れてもほろほろとした粒感があって超エアリー。

しっとりとしてなめらかな米肌。

しゃっきりとしているが、「雪若丸」などに比べると、はんなりとしたイメージ。

咀嚼時に若干のざらつきはあるが、気にならない程度。土鍋炊飯だとほぼなめらか。

甘味がしっかりとしているが、甘ったるさがない。食感と甘味のバランスが良い。

飲み込んだ後も細く長く甘味の余韻が残る。

炊飯器よりも土鍋のほうがしゃっきりと炊き上がり、甘味やエアリーさが勝る。

5歳の娘が食べて「このおこめ、あまい」「めっちゃうまい」と言っていた。

◼️武山昌彦さん(武山農園)北海道・剣淵町

「ゆめぴりか」

大粒感があり、しっとり粒立ち良い外観。

香りも良い。

口に入れると、大粒でもっちりとして食べごたえがある。

なめらかな米肌としなやかな弾力で、しっかりとした粘りがある。

外硬内軟。

咀嚼時はほんの少しざらつくが、気にならない程度。

すっきりとした旨味の後に、心地よい甘味。

炊飯器早炊きだと、より粒立ちが良く、重たすぎないおいしい低アミロース米。

◼️駒形宏伸さん(こまがた農園)新潟県南魚沼市

「ゆうだい21」

外観はしっとりつややかで粒感がある。

口に入れると、しっとりと歯に吸い付く感覚があり、粒の輪郭は薄いながらも感じられる。

もちもちとした弾力があり、米肌も咀嚼時もなめらか。

さっぱりとした旨味があるので、粘りの強い「ゆうだい21」が軽やかに食べ続けられる。

 

他に、

福島県・猪苗代町、土屋睦彦・直史さん(つちや農園)の「里山のつぶ」「晴大郎」、栃木県・塩谷町、(有坂ファーム)の「とちぎの星」「ゆうだい21」、新潟県南魚沼市、駒形宏伸さん(こまがた農園)の「コシヒカリ」、山梨県北杜市、三井勲さん(こぴっと)の「五百川」「農林48号」

などもおいしかった。

最後に、あくまで「私が食べておいしかったお米」であることを付け加える。

おいしいお米は人それぞれ。

自分のお米を食べ続けて80年

昨年に引き続き「西会津一うまい米コンテスト」の審査員として西会津町へ。

審査させていただいたのはコシヒカリ部門で、ノミネート米は5種類。西会津町のコシヒカリはあいかわらずどれもツヤッツヤ。そして、やわらかくて、粘りが強い。

全体的に猛暑と渇水に見舞われた昨年よりも良かったが、やはり食感には出穂後の高温の影響が感じられた。味と食感のバランスで迷いながらも今年は比較的わかりやすかった。

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今年は米食味分析鑑定コンクール国際大会でもノミネート&受賞経験多数の生産者・三瓶鐵江さんも審査員に加わっていらっしゃった。

西会津町のコンテストでは昨年殿堂入りして「西会津町米作りの巨匠」になられたので、もう西会津のコンテストでは三瓶さんのお米が食べられないのかと残念に思っていたが、初めてお目にかかれて嬉しいかぎり。

講評で三瓶さんが「人のお米を食べるのは初めて」とおっしゃっているのを聞いてなぜか感激してしまった。お歳は80代前半とのこと。子どものころはおそらくご家族が作ったお米を食べ、青年になった三瓶さんがお米を作るようになってからはご自身で作ったお米を食べていたのだろう。80年以上にわたる食生活の中で他人のお米を食べるのが初めてということが、なんだか不思議と尊く感じられた(家庭の炊飯ではということだと思うけど)。

前々から、生産者が他の生産者のお米を食べずにいては食味を上げるモチベーションが生まれにくいのではと思っていたが、おいしいお米を作り続けておられる三瓶さんが他の生産者のお米を食べたことがないとは、いろいろな生産者さんがいるんだなあと新鮮な気持ちになった。

そして、三瓶さんはめちゃくちゃお米のベロメーターのレベルが高いのではとも思った。「自分の米を基準に選んで、自分の米よりも上だと思う米が2つあったのでそれを選んだ」とおっしゃっていたので、終了後に三瓶さんにどれを選んだのか聞きに行った。他の審査員がどれを選んだのか聞くとまた学びになる。