柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

軟質米と硬質米

福島県会津若松市「高橋庄作酒造店」で夫の「亀の尾」を使った「会津娘 つちや亀の尾」などの酒造りに参加させていただいた。

「五百万石」や「山田錦」などの酒造好適米に比べて、「亀の尾」の吸水時間は2倍。「溶けづらいお米」だと杜氏の方々から教えてもらった。

飯米でも「亀の尾」は長時間の浸漬を必要とする傾向があると感じている。2時間では足りない。6時間以上、できれば12時間以上は欲しいところ。

だから酒造りにおいても「亀の尾が溶けづらい」というのはなんとなく想定内だった。

ところが、おもしろかったのは、蔵元杜氏の高橋亘さんのこんなお話。

「硬い『亀の尾』『五百万石』など東のお米に比べて、西の『山田錦』や『雄町』などは軟らかい」

その日に蒸した「五百万石」と「山田錦」は同じ吸水時間だったというが、蒸し米は山田錦のほうがやわらかく仕上がっていたらしい(「らしい」と書いたが、私も蒸し米の状態を確認した。でも、初めてなもので、練り練りしても硬さの違いがあまりわからなかった。味は違ったけども。たしかに言われてみれば‥くらい)

逆にかつては「東は軟質米、西は硬質米」と言われていた。

軟質米は、でんぷん質による組織が柔らかく、主に寒い地域でとれるお米。

硬質米は、でんぷん質による組織が硬く、主に温かい地域でとれるお米。

天日による乾燥時の仕上げ水分や、保管時の品質低下を防ぐための水分値設定が影響していたとも言われ、機械乾燥や低温倉庫管理が主流の現在ではこうした区分けはされなくなった。

ところが、酒造りにおいては、機械乾燥・低温倉庫管理の現代においても、「東は硬質米、西は軟質米」の傾向がわかりやすいということか。おもしろい。

自社栽培もしている「高橋庄作酒造店」の田んぼ

そして、思い出したのは2018年に京都府立大学で佐藤洋一郎さんという稲に詳しい農学者の先生を取材したときのこと。

佐藤先生は京都の酒造好適米「祝」について「京都の蔵の人はあまり好きではない。『山田錦』よりもやわらかすぎて使いにくいらしい」とおしゃっていた。

「われわれごはんを食べている人が言う『やわらかい』と、杜氏が言う『やわらかい』はどうも同じではないと思う」とも。

「山田錦」「祝」「五百万石」「亀の尾」は炊いて食べたことがあるが、「五百万石」と「亀の尾」に比べて「山田錦」と「祝」がやわらかかったかと言えば、そんなことはなかった。なんというか、栽培による気がする。

それでも、酒造りになると「軟質」と「硬質」が「溶けやすさ」において顕著なのはおもしろい。