柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

2023年おいしかった甘酒

4歳の娘が甘酒好きなのでどこかに行くたびにご当地甘酒を買ってくる。

飲み比べてみると味わいはそれぞれ。そして、めちゃくちゃお気に入りの1本に出会えた。

福島県・会津坂下町「八二醸造」の「糀あまざけ」。

原材料は会津坂下町産の有機栽培「コシヒカリ」と国産米糀。

お米の生産者は会津坂下町の堀献一さん(FARM Mililar ほり)。
優しい甘さとサラリとした飲み心地。わずかにお米の粒が感じられ、さっぱりとした後味。しかしながら、コクがある。f:id:chihoism0:20240105163021j:image

ちなみに、娘が2歳くらいから愛飲している福島県郡山市「仁井田本家」の「糀あまさけ」もおいしい。

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糀の香りが感じられ、口の中でも喉でもしっかり甘いが、飲み込んだ後は意外とさっぱり。1:1で無調製豆乳と割ったり、寒い日に水で割ってから鍋で温めてるのもいい。

それから、子ども向きではないかもしれないが、酸味が好きな人におすすめなのは、福島県・会津美里町「無の会」×富山市「吉乃友酒造」の「OKACHAN」。「福笑い」の甘酒と「コシヒカリ」の甘酒を飲み比べたが、若干「福笑い」のほうがバランスが好みだった。

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甘酸っぱくて、「コシヒカリ」のほうは若干の柑橘感。冷えた「福笑い」の甘酒に塩と赤紫蘇だけを使った昔ながらの梅干しを入れるという飲み方を会津若松市の方から教えていただき、やってみるとこれが夏にピッタリ。

他にもおいしい甘酒はいくつかあったけど、ひとまずここまで。

2024年もおいしい甘酒に出会えますように。

いつまで続くパン給食? 主食を海外に依存するということ

12日に発表された2023年産米の作況指数(確定値)の全国平均は「平年並み」だったが、都道府県生産量上位の新潟県をはじめ、北陸地方の平均は「やや不良」だった。秋田県は豪雨の影響もあったが、全体的に猛暑の影響が品質・収量ともに出た。

報道では白濁した米粒が多いと言われているが、それだけでなく、米粒の外側が柔らかく精米時の歩留まりが悪いという米屋の声も聞こえてくる。通常は30kgの玄米を精米すると27kgの白米になるのが平均的だが、「今年は精米で25kgを切ることもある」という米屋もいた。カメムシ被害なども多い傾向があり、色彩選別機にかけると大量に抜けてしまうという。

個人的な感覚では、特にお米の背側(白米の突起側の側面)がくっきりと白濁しているお米に出会うことが比較的多いように感じている。また、例年は基部(白米の突起部)が白濁しているお米に出会うことは少なかったが、今年はすでに何度か目にした。いずれもお米の登熟時の高温などが原因と言われていて、白濁して見えるのはじゅうぶんなデンプンが貯まらず空隙ができることで光が乱反射するためだ。つまり、デンプンの詰まり方が粗いので、咀嚼するとざらつきを感じやすい。他にも、ごはん粒の外側が溶けてべたついたり、炊飯後に硬化しやすかったりと、食感にも影響が出ているお米が多いと感じる。

12月初旬に新潟県・津南町で、日本最大規模のお米のコンクール「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」が開かれ、審査員を務めた。花形部門の「国際総合部門」のノミネート米は宇都宮大学で生まれた「ゆうだい21」が多い一方で、例年のノミネート米の8割以上を占めていた「コシヒカリ」は半減したと聞いた。「ゆうだい21」は味度値(米粒の外側の保水膜の厚さをあらわす数値)が高く出やすいので、コンクールの“ノミネート請負米”としてコンクールランカーから注目されている。そうした理由でノミネート米に「ゆうだい21」が増えたのかと思っていたが、「低温と日照不足には弱いが高温には強い」(宇都宮大学農学部)という「ゆうだい21」の栽培特性が影響している側面もあるのかもしれない。

■お米は工業製品ではない

私は2017年に稲作農家の夫と結婚して福島県会津地方に住み始めたが、移住してから天候に恵まれた年が一度もなかった。

2017年は遅延型冷害で、2018年は時期によって低温と高温に悩まされた。2019年は台風で、2020年は猛暑。2021年は夏が暑くて盆明け寒く、2022年は秋の気候は良かったが夏は猛暑。そして2023年の今年も猛暑。2024年こそは天候に恵まれると良いのだが、こればかりはどうにもならない。

お米はいつでもあると思われているが、自然環境に左右される農業においては不測の事態は当然起こりうる。主食の多様化や糖質制限食などによってお米の消費が減少し続け、需給調整によって生産量も減り続けているが、温暖化や異常気象が続くなか、ある年に収穫量が激減する可能性は大いにある。輸入している小麦の生産国だって、いつ天候悪化や自然災害などによって収穫量が激減するかわからない。主食の確保は国防と言えるだろう。

■学校給食は“生きた教材”

こうした米離れの要因の一つに、戦後の「栄養改善運動」があるのはご存知だろうか。簡単に言うと、“米食推進運動”ならぬ“米国食推進運動”。つまり、アメリカの食文化を理想とした輸入ありきの“粉食奨励運動”で、当時の世論はことごとく米食を否定した。

こうした歴史を知ると、現代の「お米を食べると太る」といった主張の背後に戦後の栄養教育の怨念のようなものが見えてくるが、お米の消費減と米国型の食習慣の定着によって、生活習慣病が増えているのは周知の通りだ。

お米を主食とした食習慣の形成は、健康の保持やお米の消費拡大にとって大きな意味を持つと言っていい。農水省は「米飯学校給食は、味覚を育む子どもたちに米を中心とした日本型食生活の普及・定着を測る上で重要」として、文科省と連携して米飯給食の推進している。すべての献立の主食を米飯にしている学校は増えてきているが、週1〜2回はパンや麺を提供し続けている学校もある。

文科省が掲げる「食育の生きた教材となる学校給食」なのであれば、家庭でパン食が増えている中、せめて学校給食はすべて米飯給食にする時代だろう。戦後の食糧難で子どもたちの栄養状態が悪化した時代と、子どもの生活習慣病が問題となっている現代では、給食の役割が変化していることは明白だ。

■米粉パンはパンの食習慣につながる

過去に給食の米飯回数を増やせない理由として複数の自治体から聞いたのは「パン業者との兼ね合い」「同じパン・炊飯業者に委託している周辺自治体との兼ね合い」「米飯時は調理員を1人増員しなければならない」「献立にバラエティがないと子どもたちがかわいそう」「子どもたちはパンを楽しみにしている」などだった。

一方で、首長みずからパン業者に出向いて「子どもたちの健康にとっての給食の意義」を説き、パン業者も納得した上で、すべての給食を米飯にしたという新潟県三条市のような事例もある。「子どもたちに完全米飯の是非を問うアンケートを取れ」という議会の意見に対しては当時の市長が「子どもに算数や理科の授業は今のまま続けていいかどうかを聞くのか」「子どもが算数の授業を減らせと言ったら減らすのか」と突っぱねた。要は、子どもの健康に対する自治体の本気度の違いだ。

最近は「米粉パン」を給食で提供している自治体もある。農水省はお米の需給の安定に向けて、値上がりが続く小麦粉の代わりに米粉を使ったパンなど商品開発の支援事業を行なっている。

だが、パンはパンである。米粉パンを食べ続けた人は、ごはんではなくパンの食習慣がつくだろう。原料が小麦粉だろうとお米だろうと、パンにバターやジャムを塗ったり、サラダやシチューと一緒に食べたりと、その食習慣は紛れもなくパンである。まさか給食で米粉パンを「米飯」としてカウントしている自治体はないと思いたいが、米粉パンは原料にお米が使われていても、言わずもがな米飯とは別物だ。

■学校給食はお米を主食に

今後、輸入小麦が安くなった場合、米粉パンを食べていた人は小麦パンに移っていくだろう。パンの食習慣に慣れることで、炊飯離れにもつながり、米離れは加速していく。目の前のお米を米粉パンとして消費することだけを見るのではなく、食習慣の形成という長い目で見なければ、よかれと思ってやったことがむしろお米の消費をますます減らしてしまうことにつながる。「学校給食でのパンの常食」と「米離れの加速」は、決して無関係ではないはずだ。

貧困問題とは分けて考える必要があるが、子どもたちが食事をするのは給食だけではない。パンが食べたければ各家庭の判断のもと自宅で食べたらいいし、これだけ米離れが進んでいるのだからすでに常食しているだろう。そうした現場だからこそ、「食育の生きた教材となる学校給食」では、「味覚を育む子どもたちに米を中心とした日本型食生活」を提供すべきだと感じる。

戦後の短期間で食生活が急速に変化したことで、人々の健康や食料の安全保障などに問題が起こっている。今こそ、お米の価値を見直すべき時期だ。お米の消費を拡大して、国内向けのお米の生産力を上げるためには、まずは学校給食の完全米飯化が欠かせない。

126種類のお米を食べた2日間

新潟県・津南町で開かれた「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」の全部門で米・食味鑑定士として審査員を務めさせていただいた。

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1日目は80種類、2日目は46種類のお米を食べられるという非常にありがたい機会。いろいろな意味で貴重な学びを得られた。

ちなみに出品数は5,092。

審査後、結果+食べたお米がどの生産者のどの品種か発表されるのですべて照らし合わせた上で、どのお米の票数が多いのかも確認。お米を選ぶときに重視するポイントが違うと結果が変わってくるので、どこに重きを置くかは悩みどころ。食感を重視するか、味や風味を重視するか、食感の中でも何を重視するか。「全体のバランス」と言っても、やはりいずれかのポイントが決め手になる。

いずれの部門もめちゃくちゃ真剣に選ばせていただいたので今回の選択に後悔はないけど、選び方についてはポジティブな意味で自己否定しながらもっと深掘りしたい。どこに重きを置くかについて他の審査員の方々のお米観も聞くことができたら気づきがあったり別の景色が見えたりするかも。

生産者の方々にとってコンクールは栽培のモチベーションが上がる貴重な機会だと思うけど、個人的にも食味審査のモチベーションが上がる貴重な機会だった。「おいしいお米とは何か」については常に考え続けていきたいところだけど、良食味を目指してお米を作っている生産者の方々が正確な審査によって報われるように、お米の食味に対する味覚をもっと磨いていきたい。

会場では全国の生産者や鑑定士やお米関係の方々にお目にかかることができ、ただただ嬉しかった。頑張っている人たちに会うと私も頑張ろうと気が引き締まる。

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審査ではごはんを食べるたびに水を飲んで口の中をリセットしていたのでごはんと水で胃がたぷんたぷん。

令和5年産米の炊飯で「水を少なめ」よりも大切だと思うこと

令和5年産米は高温や渇水の影響による品質低下が報道されている。

実際にさまざまなお米を食べていると、同じ生産者でも例年に比べて乳白米等が多く、今年はとりわけ「背白(お米の背側が白い)」と「基部白(パールライスくんがかぶっている帽子のあたりが白い)」が多い。

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これまで「背白」に出会うことは何度もあったが、「基部白」にこんなに出会う年は珍しいと感じる。あくまで自分が食べてきたお米の中で、ということだけれども。

ちなみに「背白」も「基部白」も高温登熟の特徴と言われている。

高温障害を受けたお米は米粒の表面のデンプンが溶解しやすいようで、外軟でべたつきがち。デンプンの詰まりが粗いため、咀嚼するとざらついたり粉っぽかったりする。メディアでは「やわらかい」と言われているが、少し冷めると劣化して硬くなりやすいお米が多い。

報道等ではこうした令和5年産米「水を少なめ」「炊飯器の早炊き機能」が推奨されている。

「水を少なめ」は有効な面もあるが、冷めて劣化しやすいのに水を少なくしたら余計に劣化しやすいのでは…と思う。それとも炊きたてのうちに素早く食べきってしまうのだろうか。

また、「炊飯器の早炊き機能」を推奨するならば、「冷蔵庫内での長時間吸水」もセットにして伝えないと、うまく炊けないことは明らかだ。最低でも2時間以上、できれば6時間以上の吸水が必要で、そうでなければ炊飯後の劣化が早く、もしも吸水なしで炊いてしまった場合は芯が残ってしまう可能性が大きい。

個人的には、「水を少なめ」よりも「冷たい水を使う」ほうが大切だと感じている。

11月下旬になって会津地方は雪も降り、ようやく水道の温度が11度まで下がったが、10月頃までは水温が20度台前半で11月上旬にようやく10度台後半まで下がった。11月上旬に静岡県で炊飯する機会があったが、なんと水温は20度だった。

(以前に書いた「水道から冷水が出ない9月」参照)

一般的に「炊飯は冷水で」と言われているが、「冷水」の温度まで明確にされているものはあまり見かけない。私は春〜秋の暑い時期は冷蔵庫で水を冷やしておく。家庭用冷蔵庫なので業務用ほど下がらないが水温は10度になる。これを洗米と吸水に使っている(吸水中は冷蔵庫内)。と言っても、洗米ではお米に最初に触れる水だけ。本当は洗米の全行程を冷水で行いたいのだが、冷蔵庫に大量の水を入れるスペースがなく、妥協している(お米は最初に触れた水を一気に吸い、洗米中は短時間で手早く行えばその間はほとんど吸水しないので…)。

試しに10月中23度の水温で洗米・吸水(吸水中は冷蔵庫内)してから炊飯したところ、ごはん粒の表面のデンプン溶解によるベタつきが際立った。

というわけで、高温障害を受けたお米を炊飯する場合は、

◆「冷水(10度以下)を洗米・吸水に使う」

◆「吸水中は冷蔵庫内で最低2時間以上、できれば6時間以上吸水させる」

◆「炊飯器ならば早炊きモード」

が大事なのではないかと思う。

と言っても、水道水の温度をいちいち測るのは面倒だと思うので、超大雑把に言うと、しばらく手を水につけていると背筋がしゃんとなるくらいが10度以下かなと思う(人によって感じ方が違うけど)。

家庭で熱燗をつけるのが趣味な人は水温をいちいち測るのは苦にならないのでは(わたし)。

「水を少なめ」は一度炊いてみてから個人の好みで判断したほうが良いと感じている。

お米の「活き青」を食べる

今年も静岡県・藤枝市で開かれた「カミアカリドリーム勉強会」で、活き青(いきあお。玄米に混ざる緑色の米)だけの「カミアカリ」(巨大胚芽米品種)を食べる機会に恵まれた。

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生産者は長野県伊那市「Wakka agri」。お米の色彩選抜機で飛ばされたお米をさらに雑穀用の色彩選抜機に3回かけて活き青だけを集めたそうな。

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以前につちや農園で色彩選別機で飛ばされたお米をもらって手作業で活き青だけを集めて食べようとしていたが、70g集めたところで断念した。

なぜそんなことをしようと思ったかと言うと、夫が私と知り合う前にある品種を栽培したら全部青で甘くてジューシーで、当時の「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」に出品したら特別優秀賞を受賞したと聞いたから(当時は整粒値の審査項目がなかった)。

今回食べた活き青カミアカリは「い草のような香り」と言う人もいた。たしかにそんな風味ある。そして、甘いが、ピンポイントで甘いと感じた。つまり、登熟しきれていないせいか味がのってないのに、甘さだけが単体で存在しているような感じ。お米の味わいは旨味と甘味のバランス感なんだなと改めて感じた。

エグ味も感じたのは、わずかにカメムシ米も混ざっていたからかもしれない。

勉強会では「天然の活き青と人工的な活き青は違うと聞いたことがある」と話す生産者も。天然と人工の食味の違いのメカニズムは何なのか、めちゃくちゃ興味深い。

生イカとイカ刺はセット購入で

日本のドルマ『いかめし』」で書いたいかめしを作ったときに捌いたイカからずるりと出てきた肝があまりにも立派だったので、このまま捨ててしまうのが惜しくなった。

ゲソの肝焼きにするかなあ、と思ったらうっかりゲソもいかめしと一緒に煮てしまった。おいしかった。

そこで、肝を塩漬けにして冷蔵庫で一晩寝かせ、塩辛を作ることにした。
肝を和えるイカが必要だが、いかめしにして食べてしまった。とは言え、イカをもう一杯買ってしまうとまた肝が出てきて無限ループに陥る。

そこでいか刺しを買ってきて、塩漬けした肝と和えることにした。

念のためアニサキス予防に一度冷凍。冷蔵庫で解凍してから炊きたての白ごはんにのせて食べたら…塩加減が絶妙で素晴らしいごはんのおとも!実家で母がときどき作ってくれたイカの塩辛を思い出した。

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イカを美しく切る自信がなかったけど、肝とイカ刺しがあれば美しいイカの塩辛が完成することを思い知った。

生イカ一杯とイカ刺はセット購入をおすすめします。

ごはん茶碗で季節を愉しむ

愛用の会津漆器の黒色ごはん茶碗が欠けてしまったので、金継ぎに出して同じ型の赤色を購入した。

毎晩のようにごはんの食べ比べで茶碗を二つ使うので、もう一つの茶碗を小鹿田焼の黄土色の茶碗に変えたら、まるで秋の紅葉のような色合わせになり、意図せず秋らしさが生まれた。

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ずいぶん前に、朝日新聞「炎の作文塾」で知られた川村次郎さんにお会いする機会があった。その時、川村さんの奥さまは季節ごとに椿や桜など茶碗を変えていると伺い、なんて風流なんだろうと憧れた。

ところが、私の好みの茶碗はどれも無地か飛び鉋など季節感がないものばかり。憧れながらも生活に取り入れることができないまま、あっという間に15年ほどの月日が流れていた。

思わぬところで茶碗に季節感を見つけ、またごはんライフが楽しくなりそうだ。とは言え、私が住んでいる地域は12月中下旬になると雪が降り始める。紅葉茶碗の愉しみはあと1ヶ月半しかない。この儚さもまた日本の美。