◆青米だらけの玄米の味わいは?
完熟直前の活青米が混ざっているお米は、「刈り遅れ」ではない証として好まれることもある。
「刈り遅れ」とは、稲刈りに最適なタイミングを逃してしまい、品質や味わいが落ちてしまうこと。
活青米がお米に混ざっていると「おいしい」とか「甘い」などと言われ、たしかに活青米が混じったお米を甘いと感じたことは何度かあった。
そのため、「活青米=甘い・おいしい」という思い込みがあったが、論理的に考えると、活青米は成熟途上の未熟米でじゅうぶんにでんぷんが詰まっているとは言えないため、味も食感も物足りないはず。
ならば、なぜおいしいとか甘いとか感じたのかというと、おそらく、刈り遅れずに活青米がちょっぴり混じるくらいのベストなタイミングで刈ることができた、品質の良いお米だったからなのではないだろうか。
以前に、長野県の米農家から活青米だけをより分けた玄米を試食させてもらった。
一緒に試食した人の中には「草のような風味がある」と話す人もいた。
私にはごはんの味ではなく米粉のような味に感じられ、若干の苦味も感じた(この苦味の原因はカメムシ被害かなと予測している)。そして、甘味があった。ただし、おいしい甘味というよりは、旨味がのっていない、甘さだけに焦点を絞ったような、物足りなさを感じる味だった。きっとこれが熟しきれていないお米の味なのかもしれない。
また、「あえて早く刈った青米だらけのお米」として「若玄米」という名称で話題になっていたお米を購入して食べてみたことがある。
ある岐阜県産若玄米は「ミルキークイーン」「にこまる」「コシヒカリ」のブレンド米で、通常の色の玄米の中に活青米がたくさん混じった玄米。3品種ものブレンド米というあたりに、「各品種から活青米をなんとか集めました!」という苦労がにじみ出ている。
炊飯すると、ビスケットのような甘い香りして、程よく柔らかく、噛むと歯に吸い付くような不思議な感覚があり、まるで生のクルミの実を食べたときのような食感。そして、味が薄く、苦味が際立っていた。カメムシ被害は少なく比較的きれいなお米であるだけに、苦味の原因が気になっているが、これも味わいや食感から未熟さを感じた。
やはり活青米そのものがおいしいのではなく、活青米が混じるくらいのタイミングで刈ったお米がおいしいということ。だから、おいしさのためには活青米は多ければいいわけではないのだろう。
◆活青米はなぜ甘い?
ただし、例外がある。
夫は若かりし頃、寒冷地で西日本の晩生の品種を育ててみたことがあったらしい。
気候に合わず実らないかと思われたが、たまたまその年の気候に合っていたせいか、なんとか活青米だらけのお米がとれたとのこと。
夫はそのお米を日本最大規模のお米のコンクールに出品したところ、なんと特別優秀賞を受賞。実際に食べた審査員の一人からは「奇跡の米」と賞賛されたらしい。
ちなみに、翌年は気候が合わず実らなかったそうで、この品種の栽培はやめてしまったので、たしかに「奇跡の米」となった。
夫が白米にして食べると、「めちゃくちゃおいしかった」そうで、甘味もあったとのこと。もしかしたら、「早刈りした活青米」と、「ギリギリなんとか収穫できた活青米」とでは、同じ活青米でも質が違うのかもしれない(前者を「養殖」、後者を「天然」と表現する人もいてナルホドだった)。
それにしても、なぜ甘かったのだろうか?
一般的に熟していない野菜や果物は甘くないどころかエグ味や渋味があったり酸味があったりする。たとえば、トマトもピーマンも緑色のうちは甘くなく、熟して赤くなると甘くなる。
この疑問について、お米の味わいに詳しい専門家に質問すると、活青米に「ショ糖」が残っているためではないかと推察されていた。
イネは光合成によってショ糖をつくり、ショ糖のまま籾の中に運ばれる。もみの中では、籾の呼吸によるエネルギーとでんぷんをつくる酵素によってショ糖からでんぷんが作られる。つまり、活青米はでんぷんが不完全な状態であるためにショ糖が残っているから甘味を感じるのではないかということだった。
「ショ糖」はあまり耳慣れないかもしれないが、ショ糖を精製したものが砂糖なので、ショ糖には甘味がある。
もみの中でショ糖がでんぷんに変わる途中の状態を「乳熟期」と呼ぶ。熟する途中でまだ固まっていないでんぷんは「まるでミルクのようだ」ということでこう呼ばれている。この“ミルク”を吸うとほんのり甘いそうなので、きっとこれもショ糖が残っているせいもあるのだろう。
◆収穫後に青米の緑色は抜けるの?
精米すると活青米は通常の玄米と同様に透明感のある白米になる。一方で、ツヤのない未成熟の「死に青」とか「死青米」とか「青死米」と言われるお米は、精米しても緑色が残り、お米に混入していると品質が下がる。
見極めるポイントはツヤがあるかないかだが、死青米は選別の段階で弾かれることが多く、一般的に目にする機会は少ないかもしれない。
ところが、目にする機会があった。
先ほど書いた「若玄米」は定義が明確ではないため、中には粗悪品もある。
ある千葉県産若玄米は、全体的に玄米色。青米は入っていたが、活青米ではなく、死青米だった。
販売者に問い合わせてみたところ、「選別基準は公開できず、青みの玄米を中心に集めることを目的、基準にしていない」との回答。
商品説明には「成熟する前に刈り取られたお米の中から、特に緑色をしているものを中心に集めた玄米」と書いてあるのだけども…。
高齢の農家の中には「活青米は収穫してから日数が経つと次第に玄米色に変わっていく」と話す人もいる。そのため、もしかしたらこの「若玄米」も収穫したときは活青米があったのかもしれない…とも思った。
しかしながら、私が4年前からジッパー付きポリ袋に入れて冷蔵庫で保管していた活青米を引っ張り出してみると、変わらず青いまま。これは、活青米だけを集めて食べてみようと思い立って150g(1合)を目標に手作業で一粒ずつ取り分けたものの目標の半分近くに到達したところで断然、そのまま眠らせておいた活青米だ。
イネの栽培に詳しい研究者によると、収穫後の青米は時間経過とともに乾燥していく過程で葉緑体の緑色が抜けていくとのこと。つまり、葉っぱが枯れるのと同じ仕組みだ。
高齢の農家が「時間が経つと緑色が抜ける」と話していたのは、玄米の常温保存による乾燥が要因とみられる。現代では湿度と温度を一定にした冷蔵庫で玄米を保存するのが一般的なので、活青米の緑色が抜けることはない。
この若玄米は保存によって活青米の色が抜けたのか、あるいは、もともと活青米は入っていなかったのか、真実は保管倉庫の中。