柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

「香り枝豆」と「豆ずり餅」

福島県・猪苗代町の町史の中に「釜井ほそば」という品種を発見した。わら細工用の品種だったそうだけど、わら細工の衰退とともに品種も衰退してしまったようだ。釜井ほそばの他にも、今では作られていないだけでなく、その名前すら忘れられてしまった品種がたくさん載っていた。

 

稲に詳しい農学者・佐藤洋一郎さんが「文化の多様性は生物多様性を担保する」とおっしゃっていて、私はこの言葉が大好きだ。つまり、わら細工という文化があるからこそ、わら細工に適した品種も存在し続ける。

 

先日、米農家である夫とお兄ちゃんに近所の飲食店「ドライブイン磐尚」から「香り枝豆」の栽培の依頼があった。この店の「豆ずり餅」はおいしいと評判。枝豆で作った餡を餅に絡める、いわゆる「ずんだ餅」だ。

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「ドライブイン磐尚」の香り高い「豆ずり餅」。手打ち蕎麦もおいしい

ドライブイン磐尚の豆ずり餅は、香り枝豆でないとダメらしい。ところが、これまで作っていた農家が高齢で栽培をやめてしまったので、夫と義兄に声をかけたそうだ。夫と義兄が香り枝豆の栽培を引き受けたことで、「豆ずり餅」の食文化や「香り枝豆」という品種が守られていく。農業ってなんて壮大な仕事なんだ。

 

昨年は、農家とお米の種交換をしたり、取材先で種を購入したり、夫と一緒に訪れた神社で古い品種の種籾を譲ってもらったりと、数十品種ほどの古い品種やめずらしい品種の種籾をほんの少量ずつ入手した。来週は苗箱に種まき。どんな多様な稲姿に出会えるだろう。生物多様性から文化の多様性が生まれたらおもしろいなー