柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

おいしく「酒米を食べる」

酒米は酒造に適しているだけではない。なんと、スペイン料理のパエリアでもその特性を発揮している。

 

酒米はでんぷん粒が粗く隙間が多い心白があるため、麹菌が繁殖しやすく良質の麹ができやすい。その特徴がパエリアに合うのではと考えたのが、東京・清澄白河のお米屋「ふなくぼ商店」。酢を吸わせる鮨米や、吸水の早い時短調理米などの研究や実験の一環として、東京・月島のスペイン料理店「TabeLuna」に山田錦を使うことを提案した。

 

「心白には空洞があるため、米の中に出汁が入りやすいのです」とふなくぼ商店店主の舩久保正明さんは言う。TabeLuna店長の佐々木一寿さんは「パエリアは出汁を楽しむ料理なので、べたっとせずお米の味があまりしない山田錦は合う」と仕上がりに手応えを感じている。白いごはんで食べる場合は、米の旨みや甘さや粘りが求められるが、パエリアに求められるお米の特徴はまさに正反対。米の旨みや甘さや粘りが邪魔になってしまう。米のニーズは食べ方によってこんなにも変わるのだ。

 

実際に食べてみると、米粒を噛むたびに出汁の味がストレートに感じられる。これはワインやビールが飲みたい…けど、山田錦の日本酒をワイングラスに注いで、“山田錦を食べながら山田錦を飲む”という楽しみ方もオツなものである。

 

ここまで主食の多様化が進んだ現代、和食回帰の掛け声だけで米を守ることは残念ながら難しい。せめて多様なかたちで米を食べ繋いでいきたい。

日本農業新聞コラム「柏木智帆のライスワークはライフワーク」)