柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

レッテル貼りはもったいない

「南魚沼産コシヒカリ」と聞くだけで「いい米」「高い米」というイメージを抱く人は多い。一方で、「安い米」というイメージがついている品種もある。

 

静岡県藤枝市の米農家・松下明弘さんの「あさひの夢」は、1キロ720円で地元の米屋に並んでいる。それを見た他の米屋は「高い。うちでは1キロ300円程度の米だ」と言ったそうだ。松下さんは「化学肥料を大量投入して1反13〜14俵も収穫する作りでは、当然味も良くない。こんなに良質な米が大量生産されて『まずい米』と思われてしまうのは、苦労して開発した技術者が気の毒」と言う。松下さんの場合は、化学肥料や農薬を使わず1反7俵。品種は同じでも作りが違えば味わいも違う。品種名だけで「安い米」とレッテル貼りをするのは、おかしな話だ。

 

以前に東京都目黒区の懐石料理店「八雲茶寮」で、鯖棒鮨と松茸ごはんを食べた。それぞれの米の品種を尋ねると、千葉県産「ふさおとめ」と、新潟県産「こしいぶき」だった。「魚沼コシ」のようなネームバリューはない。でも、料理に使われている食材はどれも全国の選りすぐりなので、きっと米も料理との相性から選び抜かれたに違いない。

 

ブランドや世間の評判に引っ張られずに、自分の目利きで米を選ぶ。こういう飲食店や米屋が増えたら、埋もれている魅力的な米を知ってもらう機会も増えるはず。そのためには、まずは松下さんのように作り手があらゆる品種に対して愛と敬意を持つことから始まる。