柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

インド人はカレーとごはんを混ぜるのか

37歳で納豆ごはんがおいしくなった」でも書いたけど、納豆ごはんの納豆をかき混ぜる派とかき混ぜない派が存在する。

でも、それだけではなかった。納豆とごはんをかき混ぜる派とかき混ぜない派もいることに気づいた。昔から納豆とごはんをかき混ぜない派だったので、納豆とごはんをかき混ぜることに思い至らなかった。

 

納豆だけでなく、カレーライスもカレーとごはんも混ぜる派と混ぜない派もいる。私は混ぜない派なのだけど、日本では混ぜる派と混ぜない派はどちらが多いのだろうか。そして、インド人は混ぜる派と混ぜない派のどちらが多いのだろうか。

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10数年前に一人でインドに行った。たしか24歳の頃。いくつかの食堂でカレーを食べたけど、必ずスプーンがついていたのでスプーンでカレーを食べた。もちろんごはんとカレーを混ぜずに。

 

しかし、鮨は手で食べるほうがおいしいように、カレーも手で食べたほうがおいしいのではないかと思っていた。

とは言え、このパラパラとしたごはんとサラサラとしたカレーをどうやって手で食べるというのか。チャパティならばサラサラカレーをどうにかすくったりぬぐったりして食べることができるだろう。でも、このパラパラごはんとサラサラカレーをどうやって食べろというのか。

 

試しにちまちまと手でつまんでみたが、永遠に食事が終わらないような気がした。

 

結局一度もカレーを手で食べることができないまま、数日間滞在したベナレスを離れる日がやってきた。まずはデリーに向かい、翌日には成田空港行きの国際線に乗る。

 

ところが、デリー行きの国内線が欠航になった。周りの客たちはあきらめて帰っていく。しかし私はこの便でデリーに行かねば成田空港行きの国際線に間に合わない。青ざめた。

 

職員に詰め寄るも、焦れば焦るほど職員の英語が聴き取れず、不安で涙がぼろぼろとこぼれた。若かった。

 

すると、他の職員や客たちが集まってきた。ぽんぽんと肩を叩いてなだめてくれる客もいた。インド人は優しい。そして、職員と客に促され、職員が運転する車に数人の客たちと一緒に乗せられた。

 

夕方になり日が落ち始めている中、車は住宅街を走った。一人また一人と客が降ろされていく。客たちはきっと自宅に送り届けてもらっているのだろう。家では家族が待っているのだろうか。そして、夕食はみんなでカレーを食べるのだろうか。私はどこへ行くのだろうか。

 

そして、ついに客は私だけになった。日はすっかり落ちている。もう流れに身を任せるしかなかった。

 

車は細い路地裏で止められ、運転していた職員から降りるように促された。暗い建物の外階段を、運転手の後について登っていく。扉を開けた先は、これまでに行ったインドのどの場所よりも明るく、小さくも立派な部屋が広がっていた。ツヤツヤと光った重厚感のある机の向こうに座っているのは、ふくよかな男性。その背後には世界地図。なんだか不思議な世界に迷い込んだような気分だった。

 

男性は職員と少し会話をしてから、私に再び外へ出るように言った。言われた通りに外階段を降りると、1台の車が止まっていて、運転席と助手席に2人の男性が乗っていた。年齢は私と近いように見える。運転席にいた男性はにっこりと笑うと「乗りなよ」とジェスチャーで促した。

 

普通に考えたら安易に乗って大丈夫なのかと心配になるけど、車に乗るように職員からも促されたので、あのオフィスのような場所にいたふくよかな男性は航空会社のエライ人なんだろうと思うことにして、車に乗り込んだ。

 

彼らは長距離電車の発着駅へ連れて行ってくれた。そこから12時間かけてデリーへ向かえば、成田空港行きの国際線に間に合うらしい。ようやく希望が見えてきた。

 

しかし、電車はまさかの8時間遅れ。さすがインド。彼らは電車に乗るところまで見届けると言ってひたすら一緒に待ち続けてくれた。

 

電車を待っている間に夕食をとることにした。彼らが連れて行ってくれたのはザ・ローカル食堂。これまでに行ったインドのどの場所よりも薄暗かった。そして、これまでにインドで食べたどのカレーよりもサラサラとしていた。これは手で食べる難易度が高そうだ。

 

そこで私は意を決して彼らに質問してみた。カレーをどうやって手で食べるのか、と。

 

すると、運転席にいた彼が、自分の皿にのっていたカレーとごはんを盛大にぐちゃぐちゃとかき混ぜてから、手際良く野球ボール大(以上ソフトボール大以下)にまとめて、大きく開けた口の中へ放り込んだのだ。

 

なるほど。これならささっと手際良く食べられる。早速真似してカレーとごはんを混ぜて、口に入りそうな大きさの球状にまとめてから、大きく開けた口に放り込んだ。口に入れるのがやっとでなぜか味のことをあまり覚えていない。

 

そして、手でカレーとごはんを食べるインド人は例外なくカレーとごはんは混ぜる派であると確信した。そうでなければ食べられない。

 

飛行機にはなんとか間に合った。その後、サラサラカレーとパラパラごはんを手で食べるインド人に出会う機会がないのだが、果たして彼らの食べ方はインドでポピュラーなのだろうか。日本人の納豆ごはんやたまごかけごはんは人によって流儀がさまざまなように、インド人のカレーも実は流儀がさまざまなのではないだろうか。いつか確かめに再訪したい。

 

ちなみにカレーとごはんを混ぜて食べざるを得ない時は、混ぜた〝カレーごはん”をおかずに白ごはんも食べたい。結局はカレーに浸食されていないクリーンな白ごはんも食べられれば、混ぜても混ぜなくてもどっちでもいいのかもしれない。