柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

「お米は太る」と思い込んでいる人へ――ボディビ ル元チャンピオンがごはん食を指南! “⻩金バランス”は「炭水化物6:タンパク質2:脂肪2」

私は20代の頃、⻑きにわたって「摂食障害」だった。

「掘るほどに出てくるお米の魅力、まずは思いつくままに」 で書いた通り、 一切の食材や調味料を拒否しながらも、お米だけは安心感があって食べることが できるという期間もあった。

今ではいろいろなものが食べられるようになって外食も飲酒も楽しめるように なった。そんな私に友人・知人・見知らぬ方から時折相談やメッセージが寄せら れる。

「本当はお腹いっぱいごはんを食べたい」と言いながらも、お米を食べると太 るのではないかという恐怖にとらわれて一粒も食べられない友人。

数年前から摂食障害に悩み、「お米は大好きなのに『糖質は太る』という情報 が(頭に)こびりついてしまって」「恐怖心が勝ってしまって食べたいのに食べ られない」と言うフォロワーの方。

私の場合はお米は食べられたが、お米に限らず「ある特定の食べ物に対する恐 怖感」は経験的に痛いほどわかる。だからこそ、「お米を食べよう」と気安く押 し付けることはできない。

■「お米は太る」と思い込んでいる人は多い

ここまでいかずとも、ボディメイクやダイエットを目指す人の中に、「高タン パク質・低糖質」を心がけている人は多い。中には炭水化物の必要性を説く人も いるが、動画共有サイトやSNSなどでは、タンパク質を意識したボリュームのあ るおかずをとる一方でお米は少量に抑える人、運動しない日はなるべく炭水化物 をとらないという人、炭水化物は朝食だけしか食べない人、高タンパク質の食材 を入れたサラダしか食べない人、たっぷりの肉ともやしだけを食べる人など、 「糖質は太る」を象徴するような情報が溢れている。

たとえこれが常食されているものではなかったとしても、できるだけ炭水化物 を減らした食事を勧めるような情報に触れ続けているうちに、「糖質は太る」と いうイメージが視聴者・閲覧者の「頭にこびりつく」のも無理はない。

お米の消費が減り続けている要因の中には、人口減少、炊飯の手間のほか、 「パンが食べたい」「パスタが食べたい」「ラーメンが食べたい」など積極的な 小⻨食の選択も挙げられるが、こうした「太りたくないから」という理由で米食 を拒否する層は実感的に多い。

統計的にはどうだろうか。農林水産省が2020年に行った「米の消費動向に関 する調査」を見てみると、5年前よりも自身のお米の消費量が「減ってきてい る」と答えた人たち(28%)の理由(複数回答可)は、「副菜・おかずを食べる 量を増やし、主食を食べる量を減らしたから」(29%)が最も多く、次に多いの は「主食も副菜も含めて、食べる量を減らしたから」(28%)だった。

 一方で、同調査の「未来の子どもたちに食べさせたい理想的な主食」の問いに は、92%が「ご飯」と答えるなど、お米のイメージは断トツに良い。

ところが、2020年に行われた内閣府「食料・農業・農村の役割に関する世論 調査」では、「米を食べると太ると思うか」という問いに対して「そう思う」と 答えた人の割合は24年前の同調査に比べて2ポイント増加、「そうは思わない」 と答えた人の割合は29ポイント減少した。

やはり、「ごはんを食べる量を減らした人」「お米を食べると太ると思う人」 は少なからずいることがわかる。
 ごはんはしっかり食べておかずは控えめにそうした情報を否定して「摂取カロリーの6割がお米」という食事を推奨して いるのは、ダイエットからボディメイク、トレーニングまで、さまざまな“肉体 改造”のニーズをサポートする世界最大級のフィットネスクラブ「ゴールドジ ム」。オリジナルのプロテインなどを販売していることもあって「高タンパク質」の食事を推奨しているイメージを持たれがちだが、炭水化物、その中でもお 米を重視している。 「たとえ減量中であっても摂取カロリーの半分以上はお米を食べることをすす めています」と話すのは、同ジムのプロトレーナーでボディビル選手権チャンピ オン歴のある須藤高峰(すどう・たかね)さん。

ゴールドジムのプロトレーナー・須藤高峰さん。東京・関東・東日本各クラス別で優勝の経験があり、健康食育シニアマイスターも取得している

「新規に入会した会員さんにカウンセリングを行うと『健康のためにお米を抜 いている』という人が多く、⻑年トレーニングされている人でも自分で集めた情 報で『お米を食べないようにしている』という人もいます。そういう人は、集中 力が上がらなかったり、筋力が上がらなかったり、お通じがなかったりと、調子 が悪くなってしまいがちで、リバウンドもしやすい。だからこそ、お米への誤解 を解いて、適正量のお米をしっかり食べましょうと伝えています」

同ジムでは、会員向けのセミナーのほか、社員向けの研修制度「ゴールドジム アカデミー」で、こうした食事に関する指導をしている。須藤さんはセミナーや アカデミーの講師を務め、4年前からは「一般社団法人日本健康食育協会」の 「健康食育シニアマスター」を取得し、より一層お米の大切さを説き続けてき た。 同ジム推奨の “⻩金バランス”は摂取カロリーの目安が「炭水化物6:タンパク 質2:脂肪2」。

だが、食事ごとに栄養素の計算ができる人は滅多にいない。そこ で、ざっくり見た目でわかるように「ごはん6:おかず4」の割合を勧めている。

それもわかりづらい場合は、ごはんをしっかり食べておかずは控えめにするイ メージで食事をすると⻩金バランスに近くなる。 須藤さんのおすすめは「白飯と一汁一菜」だ。「お米と大豆製品を一緒に食べ るというのはタンパク質の質をどんどん上げてくれる」と聞くと、「ごはんと味 噌汁」を選んできた先人のすごさを思い知る。食事の用意が面倒なときは「白飯 と具だくさん味噌汁があれば完璧」だという。

毎食必ずごはん6の割合を守らずとも2〜3日間を全体的に見て「ごはん中心 だったな」と思えるように帳尻を合わせればいい。何よりも続けることが大事な のだと須藤さんは言う。
 ■ごはんを食べないと太る場合も

「炭水化物・糖質=太る」「筋肉=高タンパク質」というイメージが広がって いるが、実際は「材料(タンパク質)をいくらとっても、それを動かすエネル ギー(炭水化物・糖質)がなければ、筋力はつかない」と須藤さん。「炭水化物 の9割以上は筋肉と脳で使われ、脂肪に回るものはほとんどありませんが、運動 や炭水化物が不足していると、筋肉で糖を使えなくなるので太り始めてしまいま す」とも指摘する。
 須藤さんが炭水化物の中でもお米を勧める理由は、余計な調味料や油や添加物 などを含まず水だけで調理できるシンプルさに加え、粒食であること。粉食の小 ⻨製品に比べて咀嚼回数が多いことで、胃腸の働きが活発になって食べ物を消化 吸収する力である“胃腸力”が鍛えられるという。筋肉トレーニングしている人だ けでなく、食事をとるすべての人に関わってくる筋肉だ。

「胃腸の70%は筋肉で、咀嚼することがスイッチとなって動き始める。胃腸の 筋肉トレーニングに繋がって燃費も良くなり、胃腸力が高まって消化吸収力が良 くなれば腸内環境も良くなる。逆に、胃腸の筋肉を使わない欠食や断食、プロテ インやスムージーなどの流動食、早食いは胃腸力を弱めます」(須藤さん)。

同ジムでは各店にプロテインバーを設置しているが、「プロテインやサプリメ ントはあくまで補助食品。基本の日常食をお米中心の食事をしっかりとっている 人にだけおすすめしています」と須藤さん。プロテインやスムージー、サプリメ ントなどを食事に置き換えるなどもってのほかだそうだ。

「1日に必要なごはんの量は?」。愚問だと思いながらもあえて聞いてみた。 言わずもがな、個人差がある。すると、須藤さんは、まったくお米を食べない人 には「週1回から」、うどんが好きで1日1食は食べたいという人には「1日2回」というふうにそれぞれに合ったかたちでごはん食をすすめていき、「(個人差は ありながらも一般論として)最終的には小柄な女性でも1日2合、男性ならば1日 3合くらいのお米が食べられるような胃腸力を鍛える」ことを推奨していると答 えてくれた。

■20代はお米好きが多い?

 以上が須藤さんの見解だ。食は極めて個人的なことであり、それぞれ持論はあると思うが、自身や指導の経験や学びから出てくる言葉には説得力がある。 前述した内閣府の調査で5年前と比べて自身の米消費量が「増えてきた」と答 えた人の理由を見てみると、「お米が好きになったから・味が良くなったから」 (38%)が最も多く、次に多いのは「お米は食べごたえがあるから・腹もちがよ いから」(29%)。特に、18〜29歳の比較的若い世代は「お米が好きになった から」「お米が健康によいと感じたから」と回答する割合が高かった。
 同調査で5年前よりも自身のお米の消費量が「減ってきている」と答えた人の 中にも、私に連絡をくれた方たちのように「お米が好き」という人はきっといる はず。お米が食べられないという私の友人は「太らない体だったら白いごはんを 山盛り食べたい」と言っていた。須藤さんの話をきっかけに「お米が好きなのに 食べられない」という人たちからお米に対する恐怖心が少しでも取り除かれたら 嬉しい。

(朝日新聞web「論座」掲載)