柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

お米が主役! おむすびは具材に合わせてお米を選ぶ?

「おむすびに合うお米」とは言いますが、ひとくちにおむすびと言っても、その具材はさまざま。シャケ、おかか、明太子、ツナマヨ。梅は、軟らかい梅干しなのか、硬めのカリカリ梅なのか。具材が変われば、合うお米も変わってきます。そこで、「五ツ星お米マイスター」で東京・原宿「小池精米店」店主の小池理雄(こいけ・ただお)さんに、お米と具材のベストな組み合わせについて教えてもらいました。

 

■お米選びのポイントは具材の「食感」と「塩気」

 

現実的にはおむすびのお米を具材に合わせて1個ずつ変えるのは難しいかもしれませんが、小池精米店店主の小池さんから「おにぎりやお米に興味を持ってもらうきっかけになれば」と、あえての提案。「お米の粒が硬いのかどうか、張りがあるのかどうか、味が濃いか薄いかという切り口でお米を選びました」と小池さん。具材の「食感」と「塩気」によって、選ぶお米は変わり、具材とお米の融合も変わってくるのだそうです。

「一般社団法人おにぎり協会」が今年6月に大手コンビニエンスストア4社を対象に行った、おむすびの人気調査(※)では、上位3位にシャケ、ツナマヨ、梅がランクイン。そこで、まずはこの3種類の具材に合うお米をそれぞれ教えてもらいました。

※一般社団法人おにぎり協会による「2018年コンビニおにぎり人気調査」

 

■コンビニの人気おむすびトップ3に合うお米

シャケ

「食感がやや硬いシャケには張りがあるお米、塩味が強いので味が濃いお米が合うということで、『さがびより』です。『いちほまれ』もいいですね」と小池さん。ちなみに、手まり寿司風のおむすびに使われるサーモンに合うお米は、「ゆめぴりか」。シャケとは対照的にサーモンは食感が軟らかめなので、「ゆめぴりか」のように粘りが強いお米が合うのだそう。「サーモンの脂の強さを軽減できるほどにお米のでんぷん量も多い」と言います。

 

ツナマヨ

小池さんいわく、食感が「でろりとしている」というツナマヨ。軟らかくて油っぽいツナマヨが米粒の間に「でろり」と流し込めるように、米粒がしっかりとしているお米が合うそうです。そこで小池さんが選んだ品種は「ひとめぼれ」。
ツナマヨだけでは味が濃くてうまみを感じにくいのですが、ごはんと一緒に食べると程良く中和され、うまみも堪能できます」

 

うめ

「梅」とひとくちに言っても、「カリカリ梅と、軟らかい梅干しとでは、合うお米が違う」という小池さんの言葉に、なるほどです。
カリカリ梅は、噛むと硬いままパラパラになります。これをキャッチできるくらいしっかりとした粒のお米は『森のくまさん』。塩味を程良く中和できる味の強さもあります」(小池さん)。「噛むと硬いままパラパラになる」という点と「塩味」という点では、昆布(佃煮)も「森のくまさん」が合うそうです。
そして、軟らかい梅干しに合うお米は「にこまる」。
「粒はしっかり、食感は軟らかめのお米なので、梅干しの果肉としっかり混ざります。強い塩味も受け止められる味わいがあるお米です」(小池さん)。梅干し同様に、潰れるとペースト状になる明太子やたらこも「にこまる」と混ざりやすいそうです。

■お米ライター柏木の好きなおむすびに合うお米は

 

お米ライター柏木は、具入りおむすびの場合、シャケは好きですが、ツナマヨや梅はあまり食べません。おかかや高菜は好きなのですが……。

小池さんによると、おかかにも高菜にも合うお米は「会津コシヒカリ」だそう。「コシヒカリ」だけ産地指定なのは、全国で栽培されている品種で、同じ品種でも産地によって特徴にばらつきがあるため。「おかかと高菜は噛まなくてもすでにバラバラしているので、米粒と具材の両方を味わえるように、『新潟コシヒカリ』に比べて硬めで粘りすぎず、『北関東コシヒカリ』よりもうまみが強い『会津コシヒカリ』が合うのです」(小池さん)

実は、この取材前に自宅で味噌を塗ったおむすびを食べてきたお米ライター柏木。味噌むすびに合うお米を尋ねてみると、「『金色の風』や『にこまる』ですね」と小池さん。「味噌は軟らかくて形になっていませんので、粒がしっかりとしていながら食感が軟らかめのお米だと口の中でお米と味噌がうまく混ざります。しっかりとした味があるお米で、味噌の味にも負けません」

打てば響くとばかりに何でも答えてくれる小池さん。お米ライター柏木は炊き込みごはんのおむすびにべったり海苔を巻いて食べるのも好きなので、炊き込みごはんに合うお米も尋ねてみました。

「粒がしっかりとしている『森のくまさん』『さがびより』……あとは『里山のつぶ』でしょうか」(小池さん)。数日前に作った「里山のつぶ」を使った炊き込みごはんは、たしかにほろほろと粒が際立っていました。

■暑い夏でも爽やかにおむすびを楽しめるお米

 

今年の夏は特に猛暑。「おむすびよりも、そうめんや冷やし中華が食べたい!」という人も多いはず。冷たい麺類におむすびが勝てるような、爽やかな食べ心地のお米はありますか?という無理難題を小池さんに投げてみました。

「うーん……爽やかなお米……」と苦笑いの小池さん。しばらく考えた後、「今(7月)なら沖縄県の『石垣島ひとめぼれ』。さっぱりとしています。6月に収穫されたばかりなので、ツヤ、照り、香りが良く、あっさりめで食べやすいですよ」。6月に出回る新米……同じ日本でも気候風土はさまざまですね。

そして、玄米食専用のお米であるにもかかわらず、夏でも重たくないお米として小池さんがあげたのは、「カミアカリ」。巨大胚芽部分が「サクサク軽やか」(小池さん)。ナッツを食べているような不思議な食感です。

■おむすびは具材でなくお米を楽しむもの

 

食べたい具材に合わせてお米を選んだり、食べたいお米に合わせて具材を選んだりと、おむすびの組み合わせは自由自在。もちろん、「品種は一般的な味わいということで、産地や生産者によって違います」(小池さん)し、おかかの鰹節の大きさも違えば、シャケの塩味や脂の強さ、昆布の佃煮の硬さなども、一概に同じとは言えません。小池さんの提案を参考にしながら、好みのお米を探してみてはいかがでしょうか。

「おむすびは具材を楽しむのではなく、お米を楽しむもの」と小池さんが言うように、おむすびの主役は、あくまでお米。具を選ぶだけでなく、お米も選んでみると、いつものおむすびに新たなおいしい発見があるかもしれません。

(柏木智帆「マイナビ農業」掲載)