柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

ラジオ体操には「プラスお米」

10月9日は「スポーツの日」。と言ってもスポーツをする日課がなく、運動不足を反省して自宅で動画を見ながら軽い筋トレを続けている。

出産して間もなかった数年前、新型コロナウイルス禍と大雪で外に出づらく、帝王切開の傷のせいで腹筋を使うこともできなかった時には、動画を見ながらのラジオ体操を日課にしていた。

■時代を超えて親しまれてきたラジオ体操

自宅でのラジオ体操を提案してくれたのは、以前からラジオ体操の素晴らしさを説いてくれていた友人だ。最近になってNPO法人「全国ラジオ体操連盟」の「1級ラジオ体操指導士」にも認定されたそうで、ラジオ体操の普及にますます力を入れている。

ラジオ体操は小・中学校で何度もやらされていたので、あの音楽を聴くと、自然と体が動くという人は私だけではないだろう。小学生の夏休み、早朝から近所の公園でラジオ体操に参加してスタンプをもらった思い出があるという人も多いのではないだろうか。

ラジオ体操の「分け隔て無さ」を感じたのは、新聞記者になって簡易宿泊街の横浜市・寿地区を取材していたとき。車椅子の人も、椅子に座ったままの人も、ラジオ体操に参加できることを知り、小さな感動を覚えた。今でもNHK「テレビ体操」の動画を流して娘と一緒にラジオ体操をするたび、椅子に座ったまま体操する出演者を見ては、寿地区での情景が目に浮かぶ。

ラジオ体操は、1928年に「かんぽ生命」前身の逓信省(現総務省)簡易保険局が「国民の健康増進」のために制定した「国民保険体操」が起源らしい。たしかに、適度に心拍数が上がり、全身を使った運動であることが実感でき、老若男女の「健康増進」に有効そうだなと感じる。

■子どもの血液検査をする先進的な県も

だが、食の欧米化や主食の多様化が進む現代では、食を抜きにして健康の保持・増進を果たすことは不可能だ。

特に現代の子どもたちは生まれた時からパンやパスタやラーメンなど多様な主食が食べられる時代を生き、清涼飲料水や砂糖(異性化糖)・油脂の多い加工食品などを手軽に買える時代を生きている。その結果、全国的に子どもの肥満が増え、糖尿病や脂質異常症といった生活習慣病が問題となっている。

人口あたりの糖尿病による死亡率ワースト上位の香川県では、子どものころから生活習慣病を予防しようと、2012年度から県内の小学4年生と中学1年生を対象に「小児生活習慣病予防検診」を毎年実施して、血液検査などを行なっている。

県がまとめた令和4年度(2022年度)の調査結果によると、総コレステロールや中性脂肪などが基準値を超える「脂質異常」が見られた割合は、小学4年生の男子が11.4%、女子が10.0%で、中学1年生は男子が7.5%、女子が10.1%と、小中学生ともに1割前後の子どもに「脂質異常」に陥っていることがわかった。

全国的に標準体重よりも20%重たい「肥満傾向」の子どもの割合が高止まりしている傾向を鑑みれば、「脂質異常」の子どもがいるのは香川県だけではないはずだ。

こうした時代になってもなお、教育の一環であるはずの学校給食で揚げパンを主食にした献立やラーメンを主食にした献立などが各地で提供されている。全国の自治体でも香川県の先進的な取り組みを導入して、現状を知り、危機感を持ってほしい。「食べること」は子どもの健康や寿命に関わる重要な営みであることを、どうか為政者や自治体職員には特に思い知ってほしい。

■「朝ごはん」は何でもいいのか?

文部科学省は「幼児期からの基本的生活習慣の確立」を目指して、2006年から「早寝早起き朝ごはん」全国協議会を設立して、「子どもの生活リズム向上プロジェクト」事業を展開している。「早寝 早起き 朝ごはん」というキャッチフレーズを見たり聞いたりしたことがある人もいるだろう。

同全国協議会によると、朝食欠食は「肥満や脂質異常症の原因の一つ」になることや、「肥満、脂質以上症等の生活習慣病の発症を助長」することにもつながるという。一方で、「朝ごはん」の内容についての言及には消極的で、どんな「朝ごはん」を理想としているのかが見えづらい。「ごはん」という言葉は「お米」だけに使われているわけではなく、「朝ごはんにパンを食べる」というふうに「食事」という意味合いでも使われている。

たとえ朝食をとったとしても、たとえば砂糖・油脂の多い菓子パンや砂糖入りのシリアルなどでは、健康的な食事とは思えない。朝食をとったか否かということばかりを重視するのは本質的ではなく、朝から砂糖や異性化糖、油脂類を過剰に摂取するのは避けるべきだろう。

パンは砂糖や油脂類などが含まれている場合が多い。たとえ、小麦粉と塩と水と酵母だけで作られた素朴なパンであっても、パンに塗るバター、サラダのドレッシング、油を使ったソテーなど、食事全体で見るとどうしても油が多くなりがちだ。ごはんに比べて水分が少ないパンは、油がないと飲み込みづらい。実際に「パンに合うおかず、朝食」のキーワードで検索すると、油や乳製品などを使ったレシピばかりが登場する。

一方で、ごはんを主食にした朝食ならば、納豆や焼き魚など朝から砂糖や油脂類を過剰に摂取するリスクは少ない。

農林水産省では朝の米飯食をすすめる「めざましごはん」キャンペーンを展開しているが、キャンペーンサイト内の「ごはんにぴったりレシピ」の中から一番調理時間が短い「5分以内」のレシピを見ると、朝から作るのはハードルが高いと感じるものが多い。

忙しい朝にあれこれおかずを用意しようとすると負担になるので、「ごはんと味噌汁があれば十分」「なんなら、おむすびだけでいい」くらいの気持ちで毎日の朝食を楽しんではどうだろう。

 

■「ラジオ体操×お米」を日常に

ラジオ体操に話を戻そう。

動画やラジオやテレビを使って自宅で気軽にできるラジオ体操は、屋内でも狭いスペースでもでき、生活に取り入れやすい利点がある。だが、私たちは軽い運動だけでは「健康増進」が望めない時代を生きている。そこで、ラジオ体操を習慣化すると同時に、お米を主食にした朝ごはんも習慣化することを意識してみてはどうだろう。

出勤前など食事の準備が大変な場合もあると思うが、たとえば納豆ごはんやおむすびなど、できるだけ手軽に作れるごはんならば続けやすい。事情があってコンビニ飯という人もいるだろうし、経済的に厳しい家庭もあると思うが、コンビニにはおむすびも売っているし、お米は茶碗一杯に換算すると比較的手軽な価格だ。そして何よりも運動した後のごはんはおいしい。

特に小中学校には、体育の授業で行うラジオ体操だけでなく、お米を中心とした和食を学校給食で提供することをぜひ検討してもらいたい。「健康増進」のためには「運動」だけでなく「食」がますます重要な時代になっている。

ちなみに、「ラジオ体操=軍国主義」と考える人もいるが、当時のラジオ体操はなくなり、現在のラジオ体操は戦後に「国から」ではなく「人々から」の要望を受けて生まれた3代目のラジオ体操らしい。軍国主義を彷彿とさせるからといってラジオ体操を活用しないのはもったいないように思う。