柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

バスマティライスを食べ比べてみた・その1

インドとパキスタンで栽培されているヒョロリと長いバスマティライスを食べ比べてみた。

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ラインナップは以下4種類。

◆LALQILLA(NATURE'S FINEST)インド
◆Kohioor(Extra Flavor)インド
◆Mehran(カーネル米)パキスタン
◆Maharani(Extra long Grain・セーラ米)インド
これはいずれも品種名ではなくブランド名。これまでバスマティ370しか知らなかったけど、wikiによると、バスマティ385やバスマティ・ラーナービールプラなどさまざまな品種が存在するらしい。LALQILLAのMajesticというバスマティライスは品種名だと思っていたけど、もしかしたら製品ライン名なのかもしれない。
今回の4種類の品種名を購入先に問い合わせたけど「バスマティです」との回答だったので品種名はわからずじまい。

【今回の炊飯方法】

150gのお米をさっと洗ってから255gの水で30分間常温浸漬させ、炊飯器の早炊きモードで炊飯。炊けたら蒸らさずすぐにほぐした。

調理由来の差をできる限りなくしたかったので、あえて湯取り法ではなく炊飯器による炊き干しを選んだ。

【食味の感想】

◆LALQILLA

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約36分で炊き上がった。

香りはほこりっぽい(ネガティヴといえばネガティヴ)。風味が段ボールっぽい(ネガティヴ)。弾力が最も薄い。パサつく。

◆Kohioor

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約34分で炊き上がった。この中では最も早い炊き上がり。炊きたてはプールの塩素のようなネガティヴな香りがして、え、なんでこれが「Extra Flavor」なの…と思ったが、あら熱がとれてくるとうっすらと香り米(茹でた枝豆のような良い香り)のような風味が出てきた。この中では香り米の成分(2-アセチル-1-ピロリン)が最も多いのかもしれない。弾力は薄く、表面も咀嚼時もざらつく。パサつく。ちなみに、お米を洗った時に最も水が白く濁った。

◆Mehran

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約38分で炊き上がった。釜底が少しオコゲっぽくなっていた。炊き立ての香りは段ボールみたいな画用紙みたいな、なんだか紙っぽさがあるけど、ネガティヴとまではいかないかなあと思っていたけど、あら熱が取れてくると古米臭が感じられた。弾力なく、ざらつき、パサつく。

◆Maharani

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約38分で炊き上がった。Mehran同様に釜底が少しオコゲっぽくなっていた。甘い豆乳飲料のような香り(ポジティブ)で、甘いキャラメルの包み紙のような風味(ポジティブ)。しっとりとして滑らかでもちもちとした弾力があり、この中では一番アミロース値が低そう。

【米粒の計測ポイント】

炊飯前の生米と炊飯後のごはんの米粒をデジタルノギスでそれぞれ5粒ずつ測って、最短、最長、平均、炊飯による米粒の伸び幅を出してみた(生米はなかなか正確だと思うけど、炊飯米は曲がっていたりして厳密な計測は難しかった)。

それぞれの長さは以下。 

◆LALQILLA

生米

最短:7.81mm

最長:9.26mm

平均:8.51mm

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ごはん

最短:15.03mm

最長:18.27mm

平均:16.69mm

→伸び幅:1.96倍

◆Kohioor

生米

最短:8.07mm

最長:8.42mm

平均:8.22mm

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ごはん

最短:13.55mm

最長:14.83mm

平均:14.29mm

→伸び幅:1.74倍

◆Mehran

生米

最短:7.47mm

最長:7.92mm

平均:7.73mm

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ごはん

最短:12.49mm

最長:15.25mm

平均:13.01mm

→伸び幅:1.68倍

◆Maharani

生米

最短:8.80mm

最長:9.51mm

平均:9.23mm

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ごはん

最短:14.44mm

最長:17.46mm

平均:15.52mm

→伸び:1.68倍

【米の外観と計測のまとめ】

LALQILLAは数値的にも見た目にも最も生米のバラツキが多く粒揃いが良くない印象を受けたが、数値的にも見た目にも最も炊飯によって伸びる。また、米粒が若干濁っているように見えた。Kohioorは心白が多い。Mehranは最も生米が細くて短い。そして、生米の状態で最もツヤがあった。また、粒揃いが良く、胚芽がわずかに残っているものもあった。Maharaniが最も長かったが、LALQILLAのほうが若干太かったのか、最も大粒に見えた。生米は少し黄味がかっていて、粒揃いが良く、心白が多い。炊き上がったごはんもうっすら黄味がかっていた。

【最後のまとめ】

ビリヤニやポラオなどにしたら評価は変わるかもしれないけど、ひとまずそのまま食べたりカレーと合わせたりして食べるにはMaharaniが好みだった。

今回の食べ比べで一番興奮したのは、Maharaniセーラ米がおそらくパーボイルドであること。パーボイルドは最近の関心事の一つ。バングラデシュやインドのパーボイルド加工を見に行きたい。ひとまず今年の秋に夫と日本の短粒米でパーボイルドに挑戦しようと決めた。

「ごはんのおとも」の定義

新米の時期になると増える「ごはんのおとも」特集。見ると、オイリーだったり濃厚だったりとヘビーな商品も多い。

それはそれで良いのだけど、「ごはんのおとも」と言えるのかどうか、疑問がわく。

「ごはんのおとも」はあくまで「おとも」。イヌやキジが桃太郎よりも目立ってしまったら「おとも」とは言えないだろう。

そこで、「ごはんのおとも」の定義について勝手に考えてみた

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↑山わさびの白醤油漬け。山わさびをすりおろしてのせて醤油をかけただけのものおいしい。

いくつか思いつくなかで一番重要だと感じるのが、【口の中にいつまでも風味が残らないこと】。たとえば、にんにくたっぷり、唐辛子たっぷり、生ネギたっぷりなど、その後にごはんそのものの味がわからなくなってしまうようなものは「おとも」にならない。「おとも」は桃太郎の顔がわからなくなってしまっては「おとも」できないのだ。

次に重要だと感じるのは、【主役の座を奪ってしまうほどのインパクトある味ではないこと】。たとえば、バターや牛脂などを使ったこってりヘビーなもの。ごはんの味が感じられず、食べ終わった後に、こってりヘビーな味の印象だけが残ってしまうものは「おとも」とは言えない。桃太郎を読み終えた後に「おとも」の印象ばかりが残ってしまったら、そのお話のタイトルはもはや桃太郎ではない。

つまり、【地味で映えないながらもごはんが進むもの】こそが、真のごはんのおとも。

そしてもう一つ重要なのは、【少量あればごはんがたくさん食べられるもの】。お腹がいっぱいになってしまうようなボリューミーなものは「おとも」にはならない。あくまでごはんを食べるための存在であることを忘れてはいけない。

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↑「山椒の実醤油漬ビリビリヤバイ漬」は口が痺れるか痺れないかのぎりぎり感

とは言え、私が過去にメディアやショップにご紹介した「ごはんのおとも」の中には、厳密には「たまごかけごはんのおとも」もあった。調味液系はそのままごはんにかけてもおいしいので、「ごはんのおとも」と言えなくもないけど、たまごかけごはんに添えるとその威力を発揮するので、やはり厳密には「たまごがけごはんのおとも」である気がする。

「精米したて」は本当においしい?

蕎麦は「さんたて」、つまり、「挽きたて、打ちたて、茹でたて」が良いと言われている。

しかし、お米も「精米したて、炊きたて」が良いのかと言えば、そうでもない。

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「炊きたて」のおいしさもあるけど、冷めてからもおいしいごはんは本当においしいごはんだと感じるし、おむすびは冷めた状態が本来だと思う。炊きたてむすびたての「おむすび」もおいしいけど、それは「おむすび」というよりは、「ごはんをまとめたもの」だと感じる。ほかほかの炊きたてむすびたておむすびを食べるたびに思う。そう考えると、ごはんは必ずしも「炊きたて」が良いとは限らない。

では、「精米したて」はどうか。

「精米したて」を売りにしている飲食店やお米屋を目にすることがある。お米屋ではもちろん「精米したて」は重要だ。

お米は精米すると酸化が進みやすいため、精米してから2週間ほどで食べきるのがベスト。そのため、購入時にすでに1週間ほど経っていると残り1週間ほどで食べきることを目指さなければならず辛い。お米を購入するときはたしかに「精米したて」がおいしさへつながる。

一方で、食べるときは必ずしも「精米したて」が良いわけではないと思っている。なぜか精米してから5〜7日くらい経つと、精米したての時よりもおいしく感じるのだ。

精米してすぐは米肌が落ち着いていないけど、数日経つと、それが落ち着いてくるためなのだろうか?そして精米から数日経ったほうが味がのってくるのはなぜなのか?

いつかこのナゾを解明してみたい。

「新米」が終わると「旬米」の季節

秋になるとそこかしこで「新米」の文字を目にする。しかし、それも12月31日まで。年が明けると「新米」はただの「米」になる。

新米じゃないならおいしくないのねなどと思われがちだけど、実は新米じゃなくなってから味がのってくる。もちろん米質や保存方法にもよるけど、多くの場合は年明けからが味がのってくる。「お米の旬は1〜2月くらい」と言ってしまっても間違いではないように思う。繰り返しになるけど、もちろん米質や保存方法にもよる。

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お米のコンテストは収穫年内が多いけど、年明け頃に開催されたら、もしかしたら結果が微妙に違ったりするのかもしれない。

どこかの自治体で1、2月にお米のコンテストが開かれたらおもしろい。人気のお米は1、2月には完売している可能性もあるけど、新米時期に申込受付しておいて、生産者にキープしておいてもらうのはどうだろう。できれば、申込受付したお米を新米時期に送付してもらい、大きな低温倉庫で同じ条件で保存できたら一番良い。

そして、新米時期だけでなく、年明けからもお米を楽しむ慣習が広まったら嬉しい。
収穫時期にはお米のパッケージに「新米」シールが貼ってあったり、メディアで新米にちなむお米特集が増えたりするけど、年明けからは「新米」シールを「旬」とか何とか別のシールに貼り替えるのはどうだろう。

そして、飲食店でも「新米」が終わったら「旬」と何とか書き換えたらどうだろう。

メディアでは季節ごとのお米の楽しみ方の特集がずっと続いたら嬉しい。だってお米は毎日食べるものだし(そうであってほしい)。

金継ぎと久野恵一さん

器や皿が好きで大事にしているつもりなのに、注意力が足りないのか1年に何枚も欠いたり割ったりしている。

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今も金継ぎ待ちの器や皿が数枚あるけど、金継ぎされた器や皿がより美しくなって帰ってくるので多少の欠けならば落ち込まなくなった。
以前に、民藝の普及にご尽力された故・久野恵一さんに、欠けた龍門司焼の急須を金継ぎして使っていると話したら、「金継ぎなんてしないで新しいのを買って」とおっしゃられて、最初はなぜだろうと不思議に感じたけど、それは久野さんが作り手を大事にしているからこそのご意見だった。たしかに作り手を買い支えていくためにはたしかに新しい急須が売れたほうがいい。

金継ぎされた皿が手元に帰ってくるたびに久野さんを思い出す。

アルデンテの長粒米

先日あるイベントにてベンガル料理のポラオを食べた。バスマティライスが使われていたので、ふうわり軽い食べ心地を想像して口に入れ咀嚼すると、なんとアルデンテ。長粒米をアルデンテに仕上げた料理は初めてだったので驚いた。

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数年前にスペインへお米取材に行った時はパエリアを食べ歩きバッキバキのアルデンテに仕上げた中粒米に魅了された。

そして今回の長粒米のアルデンテも悪くないと思った。

日本の短粒米でアルデンテはあり得ないので、米食文化の違いは本当におもしろい。

ただ、ベンガルのポラオもアルデンテに仕上げるのかどうか気になった。数人に尋ねたところ、どうやらベンガルではアルデンテには仕上げないようだった。

ならばなぜアルデンテに仕上がったのか気になった。

今回食べたのは鯉の頭のポラオ。調理に携わった人によると、バスマティライスを水で洗った後、鯉の頭を揚げた際に使った油にバスマティライスを一晩漬けた。そして翌朝、水を足して炊き上げたとのことだった。

おそらく、洗った時にお米の表面に付着した水分だけではお米の芯まで水が入らず、その後に油に漬けたことで、炊飯時の水がお米の芯に到達することを油が阻害したのではないだろうか。水は熱伝導の役割を果たすため、お米の芯まで水が浸透しないとお米の芯まで火が入らない。そして、調べてみると、油は水よりも熱伝導率が悪いことを知り、腑に落ちた。

もしかしたらお米をしばらく水に浸けてお米の芯まで水を入れた後に油に浸けていたら、お米の芯まで火が入っていたのかもしれない。やってみないと分からないけど。

しかしながら、アルデンテの長粒米はなかなかおいしい。以前にイタリアの長粒赤米(香り米)を硬めに炊いたものと辛口のランブルスコ(コンチェルト・ランブルスコ・レッジアーノ・セッコ)との相性が意外に良かったので、硬めで食べ応えのある香り米はお酒に合うように感じている。バッキバキの長粒米とお酒の相性も追求してみたい。

お米を追うほどに

娘の授乳が終わり日本酒が飲めるようになったので晩酌という毎日の楽しみができた。

これまで飲めない期間につい買ってしまい冷蔵庫に眠らせていた日本酒を少しずつ飲んでいる。

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以前から食べたお米を記録していたInstagramに日本酒もたまに記録するようになったが、お米に比べて日本酒はポジティブな感想が書きやすい。お米のInstagram記録は基本的に品種や生産者や生産地の情報しか書いてないのに。本当は食べるお米のほうも感想を書いていきたいけど、それができないのはポジティブな感想だけではないから。不思議なにおいがするとか、ざらつくとか、保温劣化しやすいとか、そんな感想をInstagramでは書けないので自分のお米メモの中だけにとどめている。

この点は、加工品(日本酒)と農産物(お米)の違いであり、嗜好品(日本酒)と日常食(お米)の違いでもあるのかも。お米の出来は天候に左右されるため、たとえ腕の良い生産者のお米、良い土地のお米であっても、年によって味わいは変わる。日本酒もお米を使っているし、お米の味わいが出るし、菌という生きもの相手ではあるけど、お米を水だけで炊飯するよりは影響がダイレクトに分かりづらい。そして、嗜好品だからこそ、ネガティブかもしれない味わいがポジティブに受け取られたりもする。

そして、日本酒の感想を書きやすいと言っても日本酒のことがわかっているわけではないので洞察のカケラもないわけだけど、食べるお米の感想を書きづらくなっているワケは、ネガティブな感想が多くなってしまっているからではないか、とも思う。

5、6年前くらいはもっとおいしいと思えるお米が多かったように思う。どのお米を食べてもうまい!という感じだった。それがいつしか変に舌が肥えてきたのか、めちゃくちゃおいしいと思えるお米に出会えるのが稀になってきた。

好きなお米を追えば追うほど、おいしいお米に出会える幸せから遠ざかっていくというこの切なさ。

また最高にうまいと思えるお米に出会いたい。