柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

「農薬・化学肥料=おいしくない」ではない

有機栽培や無農薬栽培などは、イコールおいしい、と思われがちだけど必ずしもそうではない。

もちろん、環境には良いことは多いけど、同じ生産者の同じ品種でも、有機栽培よりも減減特栽(減化学肥料・減農薬の特別栽培)のほうがおいしい場合もある。

以前にお米の勉強会で、7生産者が栽培した同じ品種を食べ比べた。3生産者は自然栽培(無肥料・無農薬)、3生産者は有機栽培(無化学肥料・無農薬)、1生産者は慣行栽培(化学肥料と農薬使用)。すると、2年連続で慣行栽培のお米が一番おいしかった。

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「自然栽培だからおいしい」「有機栽培だからおいしい」「特別栽培だからおいしい」ということはない。

とは言え、慣行栽培がおいしいというわけではなく、自然栽培、有機栽培、特別栽培でおいしいお米はある。

結局お米は、生産者によっても、その年の天候によっても味わいが違い、お米のコンテストで受賞した生産者の品種でも田んぼによっても味わいが違う。

環境負荷を考えて選ぶならば有機栽培や自然栽培を選ぶのが良いけど、おいしさで選ぶならば食べてみるのが一番。というわけで、毎年おいしいお米を求めて食べていると、いつのまにか年間200種を超える。

お米まわりのイチオシ・その1

数年前に東京・高円寺の暮らしの道具店「cotogoto」で購入した「公長斎小菅」の「竹重箱」がお米料理にめちゃくちゃ重宝している。

外出時には家族のおむすびを入れたりいなり寿司を入れたり。ハレの日にはちらし寿司を入れたり赤飯を入れたり。ハレの日以外にもおこわを入れたり。

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重箱といえば正月や花見のイメージだったし、実はこの重箱は花見用に買ったのだけど、その後はずっと花見をしていないにもかかわらず日常的に大活躍。料理は素人だけど容器が素敵だとなんとなく映えるから料理が楽しい。

いま新たに欲しいのは長角の重箱。同じお米料理でも容器が変わるだけでまた違ったお米の佇まいが発見できそうな気がする。

ハレの日はごはんケーキ

夫はスイーツが大好きだが、私は苦手。そして、2歳の娘は小麦アレルギー。されどクリスマスにはみんなで切り分けて楽しむ食べ物が欲しい。

というわけで、ごはんでケーキを作った。娘の1歳の誕生日や雛祭りなどごはんケーキはたびたび我が家の食卓に登場している。

しかし、今回は初めて海外のお米も使ってみた。イタリアの中粒黒米(糯米)「nero venere」。とは言え、福島県産で生産者は夫だ。

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トッピングはクリスマスリースと雪をイメージしたのだけど、娘はリースを「どーなっつ」と言い、夫は「なんか飾り」と言い、誰からも理解されなかった。

それでも、娘は「ごはんけーき!」と喜んで、リースと雪を全部食べ(キュウリは放置)、白米のみならず黒米も食べていた。作ってよかった。これもグルテンフリーケーキ。

クリスマスは一般的にワインとケーキとチキンが定番だけど、ライスワイン(日本酒)とごはんケーキという選択肢は新鮮で経済的で手軽で見栄えもそこそこ。ごはんケーキがもっと広がってレシピ本が出るくらいになったら嬉しい。

茶碗とごはんの相性

2歳の娘は茶碗を2つ持っているが、2つともすでに割れて金継ぎしてある。そのうちの1つは出産祝いでいただいた佐賀県伊万里市の青山窯の水色の磁器で、ごはんを食べ終わるとクマがあらわれる。娘はこの茶碗を気に入っていて、クマ見たさにごはんを食べてくれる。

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まあ子どもだしそうだよねと思うが、私たちだって使う茶碗によってごはんの味わいは変わっている。しかし、いつも同じ茶碗を使っていると、そのことになかなか気づきづらい。

茶碗の色や形状や大きさといった見た目の他、茶碗を手にした時の手触りや重さ。そして、形状によって違う香りの広がり方。食べ比べてみると、やはりちょっと違う。

以前に茶碗を選べる飲食店で食事をしたことがある。店主が選んだ茶碗で食べるほうがその店のごはんを楽しめるという面もあるが、あれこれ考えながら自分で選んだ茶碗を使うことで、ごはんとの向き合い方に新たな風が吹き込まれるようにも感じる。なにより楽しい。

朝日新聞夕刊で「炎の作文塾」を書いていらした元・週刊朝日編集長の川村二郎さんにお会いした時、「妻は季節ごとに茶碗を変える」とおっしゃっていた。桜が描かれた茶碗、椿が描かれた茶碗といったふうに季節感のある茶碗をそろえていらっしゃるのだろうか。風情がある。

私が持っている茶碗は、うっかり割ってしまった茶碗もいくつかあり、現在は7つ(うち2つは割れて金継ぎしたもの)。季節ごとに茶碗を変える習慣を真似しようと思ったが、私の好みはなんとも地味で、季節感のかけらもない。それでも茶碗を変えるだけでごはんの食べ心地が違うことは確かだ。

とは言え、なかなか理想の茶碗に出会えることができていない。以前から頭の中に理想の茶碗はあるものの、いつもどこか惜しい。いつかオーダーメイドで理想の茶碗を作りたい。

伸びるお米

秋田県から2022年にデビューする新品種「サキホコレ」を先行販売で購入できたので炊いてみた。

すると、なんだか米粒が長い。つや姫も炊くと長く伸びるので、サキホコレも同じような特性があるのかもしれない。

しかし、米粒をよく見ると、長く伸びているものもあれば、たいして伸びてないものもある。まさかコンタミではなかろう。伸び幅にばらつきがある特性なのかなあ何だろうなあと疑問に思ったので、秋田県農業試験場に問い合わせてみた。

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担当職員によると、「どれくらい伸びるかは試験していない」「数字やデータはない」と言いながらも、「感覚的にはちょっと長いと思うことはある」とのことだった。そして、伸び幅にばらつきがある要因として考えられるのは「吸水の具合」や「粒のサイズのばらつき」だという。ふるい網は1.9ミリで統一しているとのことなので、もしかしたら1.9ミリの米粒はたいして伸びているように見えず、2.1ミリの米粒は伸びているように見えたのかもしれない。吸水については冷蔵庫で10時間ほどじっくり浸漬させたのでムラは考えづらいが、炊きムラによって伸び幅が変わったということは考えられる。

それにしてもなぜ伸びるのか知りたいところだけど、「メカニズムは分かっていない」そうだ。

一般的に海外の長粒米は生米の時点で既に長細く、炊いても長細い。そして、アミロースが高めで粘りが少ない。つや姫とサキホコレは生米の状態では一般的な短粒米だが、炊くと長細くなる。しかし、アミロースは一般的な日本の短粒米並みで粘りがある。

つや姫やサキホコレの他にも伸びる短粒米の品種はあるのか、つや姫やサキホコレが長細くなるメカニズムは何なのか、とても興味深い。

〝遺卵〟の味

Sさんから亡くなったご友人の香典返しでもらったという100個の卵のおすそわけが義実家に届き、そのおすそわけとして12個の卵がわが家に来た。
この卵がとてもおいしい。白身がぷりぷり。目玉焼きにすると白身がもりもり膨らむ。

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しかし、生産者の方はもういない。まだ若かったらしい。

そうか、この卵は〝遺卵〟だったんだなあと思うと、一玉一玉がより重く感じられる。

お米も卵も野菜も作り手がいてこそ食べられるという当たり前のことに改めて気付かされるとともに、飼い主がいなくなった鶏たちはどうしているだろうかと気になる。

利き米には禅椀

会津漆器ブランド「めぐる」の禅椀に一目惚れ。漆器でごはんを食べるおいしさにも開眼した。
茶道具の棗のような形状なのできっと白ごはんの香りが感じられやすいに違いないと思ったら本当にその通りだった。平茶碗では感じづらかったわずかな香りが分かりやすくなった。利き米には禅椀が最適。

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そして、めぐるの貝沼航さんによると、吸湿性があるのでおひつのようにごはんの余分な水分を吸ってくれる他、保温性があるのでごはんの熱が逃げづらく、器を手で持ちやすい。つや消しの漆器の表面に映る照明が「おぼろづきのよう(貝沼さん)」と聞いたらますます美しさを感じて買わずにはいられなかった。手触りもとても良い。
漆の実からできた和ろうそくも見せていただき、その製法を教えていただいたり、会津若松市にはたくさんの職人さんがいることも教えていただいたりと、会津漆器の魅力を堪能したひととき。私が好きな漆器は木地溜塗りという名であることも教えていただいた。次は木地溜めのお皿が欲しい。
先日のビリヤニ会で貝沼さんと出会い、3つの皿と器の金継ぎをお願いして、受け取りに訪れた会津若松市「紺と種」母屋のギャラリーで禅椀に出会い、日々の何かは何かにつながってゆくんだなあと思うと、改めて日々の小さな一つ一つを大切にしていきたいと思うのであった。