柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

令和5年産米の炊飯で「水を少なめ」よりも大切だと思うこと

令和5年産米は高温や渇水の影響による品質低下が報道されている。

実際にさまざまなお米を食べていると、同じ生産者でも例年に比べて乳白米等が多く、今年はとりわけ「背白(お米の背側が白い)」と「基部白(パールライスくんがかぶっている帽子のあたりが白い)」が多い。

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これまで「背白」に出会うことは何度もあったが、「基部白」にこんなに出会う年は珍しいと感じる。あくまで自分が食べてきたお米の中で、ということだけれども。

ちなみに「背白」も「基部白」も高温登熟の特徴と言われている。

高温障害を受けたお米は米粒の表面のデンプンが溶解しやすいようで、外軟でべたつきがち。デンプンの詰まりが粗いため、咀嚼するとざらついたり粉っぽかったりする。メディアでは「やわらかい」と言われているが、少し冷めると劣化して硬くなりやすいお米が多い。

報道等ではこうした令和5年産米「水を少なめ」「炊飯器の早炊き機能」が推奨されている。

「水を少なめ」は有効な面もあるが、冷めて劣化しやすいのに水を少なくしたら余計に劣化しやすいのでは…と思う。それとも炊きたてのうちに素早く食べきってしまうのだろうか。

また、「炊飯器の早炊き機能」を推奨するならば、「冷蔵庫内での長時間吸水」もセットにして伝えないと、うまく炊けないことは明らかだ。最低でも2時間以上、できれば6時間以上の吸水が必要で、そうでなければ炊飯後の劣化が早く、もしも吸水なしで炊いてしまった場合は芯が残ってしまう可能性が大きい。

個人的には、「水を少なめ」よりも「冷たい水を使う」ほうが大切だと感じている。

11月下旬になって会津地方は雪も降り、ようやく水道の温度が11度まで下がったが、10月頃までは水温が20度台前半で11月上旬にようやく10度台後半まで下がった。11月上旬に静岡県で炊飯する機会があったが、なんと水温は20度だった。

(以前に書いた「水道から冷水が出ない9月」参照)

一般的に「炊飯は冷水で」と言われているが、「冷水」の温度まで明確にされているものはあまり見かけない。私は春〜秋の暑い時期は冷蔵庫で水を冷やしておく。家庭用冷蔵庫なので業務用ほど下がらないが水温は10度になる。これを洗米と吸水に使っている(吸水中は冷蔵庫内)。と言っても、洗米ではお米に最初に触れる水だけ。本当は洗米の全行程を冷水で行いたいのだが、冷蔵庫に大量の水を入れるスペースがなく、妥協している(お米は最初に触れた水を一気に吸い、洗米中は短時間で手早く行えばその間はほとんど吸水しないので…)。

試しに10月中23度の水温で洗米・吸水(吸水中は冷蔵庫内)してから炊飯したところ、ごはん粒の表面のデンプン溶解によるベタつきが際立った。

というわけで、高温障害を受けたお米を炊飯する場合は、

◆「冷水(10度以下)を洗米・吸水に使う」

◆「吸水中は冷蔵庫内で最低2時間以上、できれば6時間以上吸水させる」

◆「炊飯器ならば早炊きモード」

が大事なのではないかと思う。

と言っても、水道水の温度をいちいち測るのは面倒だと思うので、超大雑把に言うと、しばらく手を水につけていると背筋がしゃんとなるくらいが10度以下かなと思う(人によって感じ方が違うけど)。

家庭で熱燗をつけるのが趣味な人は水温をいちいち測るのは苦にならないのでは(わたし)。

「水を少なめ」は一度炊いてみてから個人の好みで判断したほうが良いと感じている。