ある米屋の店主から「寿司用ブレンド米に『つや姫』を混ぜにくい」と聞いた。理由を聞くと、1993年の大冷害時に出回ったジャポニカ米とインディカ米のブレンドに対する悪いイメージがあると言う。
つや姫は炊くとひょろりと長くなる。不思議なお米だなあと思っていたが、まさかその見た目だけでブレンド米から嫌厭されてしまうとは…。お米屋さんとしてはつや姫は味が良いことはわかっているけど、寿司屋さんやお客さんが細長い見た目のお米に悪いイメージを抱いてしまうのではないだろうかと心配しているのだ。そこまで忖度するほどお米屋さんも大冷害時には痛い目にあったらしい。
トルコのイスタンブールで寿司米を食べ歩いたときに、ある店でカリフォルニア産「イタニシキ」を使ったシャリに出会った。ほろほろと粒感があって、日本で食べる鮨に一番近い。だが、ごはん粒を見ると、ひょろりと細長い。長粒米ほどの長さではないが、短粒米ほど短くもない。あとから考えると、つや姫と同じような特徴の米だったのかもしれない。炊き方や寿司酢の混ぜ方や握り方によっても違うのでイタニシキだからおいしいとは断言できないけど、このシャリはおいしかった。
米の見た目と味は比例しないとつくづく思う。「合うわけがない」「おいしいはずがない」など米に対する先入観や既成概念を取り払うことで、米の新しい可能性がきっと生まれる。
(日本農業新聞コラム「柏木智帆のライフワークはライスワーク」)