柏木智帆のお米ときどきなんちゃら

元新聞記者のお米ライターが綴る、お米(ときどきお酒やごはん周り)のあれこれ

すんき漬けと白ごはん

先日、長野県で「すんき漬け」を買ってきた。

すんき漬けとは長野県木曽地方の伝統的な発酵食品で、無塩の漬物だ。漬物といえば塩味のある調味料を使うのが当たり前だと思っていたので、初めて知った20代のときには「塩を使わない味噌」「酢を使わない酢だこ」くらいの疑問を覚えた。赤カブの葉に「すんき種」を加えて乳酸発酵させる方法で塩が貴重だった時代に生まれたと知り、先人の知恵と発酵という現象に敬服した。

初めて食べたのは15年ほど前、家族で木曽へ旅行に行ったとき。蕎麦屋ですんき漬けをのせたかけそばを食べてみると、甘辛いつゆと酸味のあるすんき漬けとの相性の良さが抜群だった。あたたかい甘辛味というのは、汁ものとはいえ食べ続けているとどうも喉が乾くような感じもしてしまうのだが、そこに酸味と漬物のみずみずしさが加わると、たちまち爽やさな食べ心地になる。

そんな思い出があったので、すんき漬けを見つけて即購入した。

帰宅後、白ごはんにのせてみると、なんだかものたりない味。おそらくあの時と同じような味だと思うが、かけそばとの相性に比べると、白ごはんとの相性はいまひとつ。醤油をたらしてみても、何か違う。冷蔵庫に入れたすんき漬けがなかなか減らずにいた。

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そんなとき、福島県郡山市で開かれた「ASAKAMAI 887新米祭」で「山角や」のオーダーメイドおむすびを食べた。「おむすびを肴に熱燗を呑む」で書いたようなおむすびたちに出会い、翌日私はすんき漬けを冷蔵庫から出した。

そして、たまたま冷蔵庫に作り置きしてあった「カレーちりめん(料理家・富田ただすけさんのレシピ)も出して、両者を具にしたおむすびをむすび、海苔で巻いてみた。

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すると、相性が抜群。さらに、おかかを作り、すんき漬けと一緒におむすびの具にして、白ごまをふると、これも相性がいい。すんき漬けを常備したいとさえ思えた。

カレーちりめんもおかかも甘辛味。すんき漬けは甘辛系と一緒に食べると、白ごはんでも輝ける。ごはんのおともやおむすびの具材は組み合わせによってさらに楽しめることを実感。ますますごはん熱が高まってゆく。

「ササニシキは原種に近い」?

ササニシキは原種に近い」という表現をweb記事や生産者のホームページやグルメ系の雑誌など、さまざまなところで目にする。

その度に、ここで言われている「原種」とは何を意味するのだろうと考え込む。

調べてみると「原種」の意味は2種類ある。

1つは「種子をつくるために使われる種子」のこと。

もう1つは「品種改良以前の種子」「在来種」のこと。

ササニシキは原種に近い」は、おそらく前者のことではなく後者を指しているのかなと思うが、ササニシキは果たして「品種改良以前の種子」「在来種」に近いのだろうか。

1907年に富山県の石黒岩次郎が「愛国」から選抜して生み出した「銀坊主」。これは「改良品種」に入るのだろうか。あるいは、明治時代以降の公的機関によって育種された品種が「改良品種」なのだろうか。

コシヒカリが生まれた年は1956年で、ササニシキが生まれたのは7年後の1963年。

コシヒカリの親の親である「農林8号」は、ササニシキの親の親でもある。

そして、ササニシキの親である「ハツニシキ」は、コシヒカリのきょうだいでもある(親は「農林22号」と「農林1号」)。

こうしてみていくと、コシヒカリよりもササニシキのほうが「原種に近い」理由がどうしてもわからない。原種に近いっていったいどういうことなんだろう。

おむすびを肴に熱燗を呑む

先日、郡山市のブランド米「ASAKAMAI 887」の新米祭へ行ってきた。ワーク&トークセッションの講師を務めた後のお楽しみは「おむすびBAR」。

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京都を拠点に活動しているおむすび屋「山角や」の塩むすび1つとオーダーメイドおむすび5つを食べ、郡山市の酒蔵「仁井田本家」の日本酒を4杯飲み、味噌汁を茶の湯に見立てて提供する「志なだ」の「味噌湯」で締め、大満足。

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オーダーメイドおむすび1つめは「シャケ」をお願いすると、シャケの他にドライトマトのオリーブオイル漬け、燻製オイル、ピスタチオ、バジルでむすんでくれた。これが仁井田本家のレモン燗に合う。

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2つめは「奈良漬」をお願いすると、奈良漬の他に、レモンの皮、大葉、海苔でむすんでくれた。これもレモン燗に合う。

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3つめは「牡蠣の燻製」をお願いすると、牡蠣の燻製の他に、レモン、燻製オイル、ルッコラでむすんでくれた。ルッコラがおむすびに合うという発見。これもレモン燗に合う。

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4つめは「焼きサバ」をお願いすると、焼きサバの他に、紅しょうが、燻製醤油、大葉、レモン、海苔でむすんでくれた。サバと紅しょうがの相性抜群。これもレモン燗に合う。

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そして締めの5つめは「ピーナツバターはどう使う?」の問いに答えたおむすび。ピーナツバター、ピスタチオ、レーズン、燻製醤油、ミント、アボカドでむすんでくれた。これは衝撃。ピスタチオとピーナツバターとアボカドのトリプルオイリーコラボ。コクがありながらミントが爽やか。ピーナツバターは無糖なのでレーズンの甘さがほんのり感じられる。ごはんの弾力とミント感とほのかな甘さで、昔パリのレストランでデザートに食べたミントのギモーブを思い出した。

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志なださんに日本酒を味噌湯で割った「味噌湯割り」が飲んでみたいと伝えたらすでにやっているとのこと。さすが。ぜひおむすびと一緒に飲んでみたい。

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おむすびに関しては保守的で、買うおむすびは基本的に「塩」「シャケ」だったけど、お酒と合わせたくなるようなおむすびを食べていると、おむすびの可能性は幅広そうだなあとワクワクしてくる。
日常食でありながらハレ感があり、しかしながら食材は日常感があり、毎日の食卓が無理なく楽しく華やかになるおむすび。おむすびとお酒のペアリングの文化が醸成されたら素敵だな。

鯉を食べる文化

先日、郡山の鯉を使った本格ベンガル料理が手軽に作れる「ベンガル鯉カレーキット」でベンガル地方の郷土料理「鯉のジョル」を作ってみた。さらりとしたスパイシーな汁にバスマティライスが合う。

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鯉は好き嫌いが分かれるようだけど、私は信州出身の母が作る「鯉の旨煮」をよく食べていたので親しみがある。記者時代に母と日本料理店で食べた「鯉の洗い」もおいしかった。「鯉こく」も食べたことはあるはずなのに記憶にないのはなぜだろう。

それでも、鯉をカレーにして、しかもベンガル料理のジョルにして食べるのは初めて。鯉とバスマティライスの組み合わせも初めてで、いろいろと衝撃の多いカレーキットだった。

バングラデシュはある統計で一人当たりの米消費量が世界一だと知った頃から注目している国。お米の特性は違えど、気候や食材や調理法なども違えど、「米×魚」という食文化に日本との共通点を感じるとともに、何かしら米の消費拡大のヒントがないだろうかと気になっている。

おやつもお米を食べよう運動・その4

先日、娘と一緒に「鬼まんじゅう」を作った。

鬼まんじゅうとは、角切りのサツマイモを小麦粉の生地に混ぜ込んで蒸し上げるでまんじゅうのこと。あんは無い。娘が小麦アレルギーなので、米粉を使った。さらに、「水+砂糖」は「甘酒」で代用して、「米粉」に「甘酒」を使うというダブルお米のおやつレシピが完成した。

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食べてみると、うっすらと酒まんじゅうのような風味と、むっちりとした団子のような生地。これはこれでおいしい。調べると、酒まんじゅうだけでなく、甘酒を練りこんで発酵させた皮を使う「甘酒まんじゅう」なるものもあった。

皮が甘いので使うサツマイモはねっとりとした極甘の蜜芋系ではなく、自然な甘さのものがいい。角切りにするので粉質系を選ぶと、ホクホク感も楽しめる。

米粉と甘酒で米三昧のおやつ。娘のおかげでお米の楽しみの幅が広がっている。

嫌いな食べものも尊重する

子ども向けレシピを検索していると、野菜嫌いな子どもに野菜を食べてもらうためのレシピを目にすることが多い。野菜を肉で巻いたり、お好み焼きに入れたり、ハンバーグに混ぜたりと工夫が施されていて、親たちの試行錯誤が垣間見え、子どもたちへの愛を感じる。

でも、大人でも食べ物の好き嫌いはあるのだから、子どもにも好き嫌いがあって当たり前だし、成長にともなってほのかな苦味やえぐみや特有の風味をおいしいと感じるようになる子は多いだろうし、今すぐ食べずともそのうち食べるようになるのでは?とも思う。それに、逆に子どものころに食べていたからといって大人になってからも食べるとは限らない。

なぜ野菜を食べさせたいのだろうか、その理由を推測してみると、「健康」や「味覚形成」のためなのかなと思うが、子どもの野菜嫌い克服レシピを見ると、全体的に油やケチャップやマヨネーズやソースなどが多い。野菜を食べるために、過剰に油や砂糖などを食べていると、逆に「健康」にも「味覚形成」にも良くないのではと思う。

最近は目にしなくなったが、野菜がわからないようにみじん切りにして肉に混ぜ込む…というレシピを過去に見たことがある。でも、もしも自分が嫌いなものをこっそりと料理に混ぜ込まれていたらどうだろう。

たとえば、飲食店を予約する際に、店員から「嫌いなものやアレルギーはございませんか?」と聞かれて「アレルギーではありませんが、○○は苦手なので抜いてください」と伝えていたにも関わらず、当日食べた料理に実はわからないように○○が入っていたと後から知ったら、その店の信用度はガタ落ちどころではない。

これと同じで、親が作った料理に自分の嫌いなものがこっそりと入れられていたら、親に対して不信感が生まれてしまうのではないだろうか。味覚は人それぞれであり、食べ物による体調や精神への影響も人それぞれ。食べ物の好き嫌いは子どもであっても大人であっても尊重したい。仕事やプライベートの人間関係で図らずも相手の「好きな食べもの」や「苦手な食べもの」を知る機会があると親しみが湧いてくるのは、それもその人らしさだから。「食べない選択」も尊重すべきだよなあと感じている。

キノコの神様はエリンギ

いただきものの乾燥シシタケ(香茸)で、シシタケごはんを作ってみた。

香茸と呼ばれているだけあって、香りが濃い!まるでトリュフのような、椎茸を数十倍に濃縮したような香り。

乾燥シシタケ(香茸)

水で戻して、まずは炊き込みごはんにしたら、あ、これじゃない。気を取り直して、翌日は炒めてからごはんに混ぜたら、これだ!

米油で炒めて塩をふっただけで旨みが呼び起こされたように爆発。香りと旨みがあまりにも濃いので少量しか食べられなかった。

あまりの濃厚っぷりに、「もしやキノコの王様はシシタケ(香茸)?」と思って検索してみると、キノコの王様は松茸とかポルチーニ茸といった意見が多いようだった。

最近、3歳の娘のお気に入りは「ドコノコキノコ」という曲。あるYouTube動画が特にお気に入りで「森のキノコ」「空のキノコ」「海のキノコ」などさまざまなキノコが登場する。

娘が描いた「もりのキノコ」

娘は最後に出てくるキノコを「かみさまのキノコ」と呼んでいる。「♪かみさまだけがしってるよ、ホイ!」という歌詞とともに、なぜか後光がさしたエリンギが登場するのだ。

「キノコの神様はエリンギ」は、わが家の常識となっている。