「おふくろの味」という言葉がある。
私は母の料理が大好きで、特に煮物系は母の味を再現しようとしている。中でも、煮魚は外食では「甘すぎる」と感じることがほとんどなので、実家に住んでいるときは家以外では積極的に煮魚を食べる気がしなかった。
でも、味噌汁だけは例外だ。
母は味噌汁に必ずタマネギを入れる。
私がタマネギの味噌汁を好まないことを知っている母は、いま私が実家に帰るとタマネギを入れない味噌汁を作ってくれるけど、母は「味噌汁はタマネギを入れないと物足りない」と言う。
タマネギを入れた味噌汁を好まないのは、味噌汁が甘くなってしまうから。味噌汁は、しゃっきりしたものがいい。
自分では料理で半端になった野菜やキノコを味噌汁の具にすることが多いけど、シジミだけとか、ナメコだけとか、豆腐とワカメとか、大根と油揚げとか、具材は1、2種類のシンプルな味噌汁が好きだ(そういえば、ジャガイモを入れるときはタマネギが入っていてもいいよねと思えるけど、タマネギの量は少なめがいい)。
一方で、姉は息子や娘たちにタマネギの味噌汁も作ることもあるらしい。
家庭の味は必ずしもすべてが祖父母から孫、父母から子へと受け継がれるものではない。嗜好や手間や価値観や原材料の有無などの問題で、受け継がれるものもあれば、受け継がれないものもある。
姉の子どもは大人になってからタマネギの味噌汁を作るかもしれないし、作らないかもしれない。私の子どもがタマネギを何かの機会に知って、作るようになるかもしれないし、作らないかもしれない。
いま私たちが何気なく食べている、肉じゃがとかきんぴらごぼうとか、いわゆる「定番料理」は、家庭によって微妙な違いはあれど、いかにして「定番」になり得たのだろうか。タマネギの味噌汁のことを考えると、時代を経てもなお愛されている「定番」のすごさを思い知る。